複雑・ファジー小説

Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.399 )
日時: 2013/08/10 10:49
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: ae8EVJ5z)



121・The meaning for which it fights is asked.


まさか、こんなことになるなんて。
たった一人の女じゃないか。あの小娘、雪羽といったか。美しい黒色の瞳と髪を持つ女。赤色に執着する、まっすぐでバカで、純粋で。
一緒に居た時間は短く、少しだけ話しただけじゃ無いか。それなのに、なんなんだろうかこの感情は。あのまっすぐな瞳に見つめられたあの時間を思い出すと、心臓が締め付けられるようだった。恋ではない。不思議な感覚だ。
雷暝様はどうだったのだろうか。あの雪羽と一番長くいたはずだ。ソウガは。

変動。
俺たちに与えられた、変動。それは間違いなくあの女だった。
ちがいなかった。
これは、破滅への道かもしれない。今までずっと負けなかった俺たちが、今はじめて劣勢だ。
それすらも楽しんでいるのだろうが。

『なぁ』

戦っている自分の獣に静かに声をかけてみる。

俺は、迷いたくない。俺はここに居たい。みんなと一緒に居たいんだ。
ヒダリも、ロムも死んだ。殺された。違う。負けたんだ。
俺、さっきから泣いているんだ。涙が止まらないんだ。ロムもヒダリも良い奴だったから。振り返ると、本当に涙が止まらなくて。
目を閉じてねむりたかった。でも眠ったらいけない気がした。

痛みも連動して伝わってくる。
横の腹を蹴り上げられたか。圧迫。骨が何本か軋んだ。
折れたかもしれないな。

『俺たちは、これからどうすればいいんだ』

「なに当然のことを言ってんだよ。勝つんだよ。勝って勝って勝って、生き延びる。生きて生きて生きて、生きまくるんだよ」

切羽詰まった声。
ごめんな。
あぁ、ごめん、なんて、いままで一度も考えたことなかったのに。俺と俺の獣は、二つで一人で。だから、申し訳ないなんて考えたことなかった。
でも、コイツは俺のために戦ってくれている。俺の体がないとこいつも生きられないからかもしれない。でも、結果として俺を助けてくれて居るから。

そろそろ、決めないと。

ここに居れば、確実に雪羽のあの瞳は濁ってしまう。
雷暝様に、健全な精神も何もかも奪われてしまうだろう。彼女なら大丈夫だとか、そういうことも言い切れなくて。

雪羽も、ごめん。俺は生きるから。
生き延びるから。だから、雪羽には腐ってもらう。

「yyyyyyyyyyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa……!!」

腹の奥の方から揺さぶられるような声。
きらめいて揺れる燕の髪と、皮膚。光の線を描きながら、彼は容赦なく襲いかかってくる。

彼にも守るものがあるんだ。
ここに集まっている人間は、結局何かを守りたいんだ。
それが自分自身であっても、それでも。


〜つづく〜


百二十一話目です。