複雑・ファジー小説
- Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.400 )
- 日時: 2013/09/12 21:02
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: ae8EVJ5z)
122・One's interest.
自分が自分でなくなるのが、すごく怖かった。それでも、この恐怖を飲み込めば守れるものがあるのなら、おれはこの姿になってでも戦いたいと思う。
正気の自分では頼りないのだ。思いっきり化け物みたいに、それこそビーストのように牙をむき、目も見開いて爪を研ぎ、空を掻いて血肉への飢えを感じながら戦う。
いや、戦うという表現は実は正しくないのではないだろうか。
むさぼる。
これが正しい。足りない何かを求めるように、むさぼる。相手から何かをそぎ落とす。
肉、血、そして。
後は、なんだ。
そうだ、これはなんだろうか。おれがこの状態になるときにいつも感じる昂揚感。何かにおぼれるような、皮膚が何かに反応してちりちりと焦げるような。
それ以外に感じる、この渇きのようなものはなんだ。
あぁ、そうだ。
全てが落ち着いたら、仲間に会ってみたい。おれはなんだかんだで、おれについて知らな過ぎる。
この体の使い方。この血の扱い方。そして、他人と自分の違い。
他のビーストのハーフは一体どんな時にこんな姿になり、そしてこの渇きの癒し方を招待を、知っているのか。
知りたい。初めての感情だ。知りたい、なんて。自分の事を知りたいなんて。
俺だって変わった。
世界が変わる。そんな予感がするんだ。空気の流れが違う。
白衣を翻して、瞳をゆがめて切りかかってくる奴の唇が、かすかに動く。
なんだ、魔術か。
慌てて距離を取るなんてことはしない。
言葉を紡ぐ唇に、拳をたたきこむ。同時に肩に牙をめり込ませて肩に噛み付く。
痛みに歪んでいるであろう顔を確認する前に、背中に衝撃。痛みだ。銀でつかれたのかもしれない。
知るか。
血液が流れだす感覚と、何かが満たされていくこの感じ。たまらなく気持ちいいような、涙が出てきそうになるような、この感じ。
溢れだしてくる血液をもっと求めるように、もっと深く牙をくいこませて。
苦いような、良くわからない味のする血を啜って、笑いを押し殺した。
レジルの口の中で指を動かして、奥歯を一本掴んで引っこ抜く。同時に口をはなすと、レジルは銀を俺の背中から引き抜いた。
「ってぇ……。意味わかんねぇ戦い方すんなアホ」
口の中にたまった血を吐き出して白衣の袖で口の端をぬぐったレジルは、きれいな眉を曲げて見せた。
おれはとても人間語を話せる気がしなかったので黙ったままで自分の手の中にあった歯を口に入れて噛み砕く。
「はぁっ!? な、なにしてんだお前、気持ちわる……」
「ha、hahaha、ahahahahaha!!」
〜つづく〜
百二十二話目です。