複雑・ファジー小説
- Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.406 )
- 日時: 2014/03/30 21:48
- 名前: 揶揄菟唖 (ID: ae8EVJ5z)
126・It explodes excitedly.
拳銃を取り出した目の前の敵を見て、大きく息を吐き出した。
素の域は人間の物とは違う。白い煙となって、空を目指し、そして消えていく。
穏やかな気分だった。
おれはここにいる。
それが分かったなら、怖いものは無い。そんな気がしている。心臓の脈は速い。人間の域を超えた。おれは人間じゃないのだけど。
何度か、あった。
興奮した時に、目の色が金色に変わって皮膚が鱗のように逆立ち髪の束があり得ない色を放つ。
髪ではないのだ。髪の毛に一見見えるこの二本の触角は、髪の毛ではない。
親方と旅をするようになってから、何度か自分と同じ運命にあるビーストと人間のハーフの存在を見てきたが、どいつもこいつも一目で人間ではないことがわかる奴らばかりだった。頭から角が生えていたり、眼球が一つしかなかったり、しっぽが有ったり、片方の腕が異様に大きかったり。
そいつらとおれとの違いは、おれは人間に辛うじて見えるということ。
身長が低く、身体能力が高い。興奮するとすこしビーストの血が騒ぎ、さっきのように体が変形してしまうけれど、普段の生活をしているならそんな心配はない。
人間に見えなくなってしまう瞬間。怒りが原因なのがほとんどだったのだが、興奮して血が騒ぐと、心臓がなにかにのまれる感覚がするのだ。
自分がどこにいるのか、何者なのか。だれかに心臓をつかまれたように苦しく、血が熱く、耳元で息遣いが聞こえ、感情がぶれる。
今は、そうじゃない。
体は熱い。けれど頭は冷静で、心臓の脈も速いまま。
強くなった気分だ。
誰かがそばにいてくれる感じがする。
おれ、いまならだれにも負けない。
おれを待ってくれている雪羽のためにも絶対負けないから。
「親方」
小さくつぶやく。
おれはあんたを忘れない。でも、縋らないから。
おれは、一人だったことなんてなかった。母さんが居た。親方が居た。今は、雪羽が居る。待っている人が居るから。
「レジル。おれは、お前を倒す」
「俺様だって負けるわけにはいかない」
拳銃をコッチに向ける。
銃器のことは知らない。
詳しくない。おれはバカだから。でも戦わなくちゃいけない。
大丈夫。
雪羽はしゃがんだのか、見えなくなってしまった。
でもおれは笑って見せた。
後ろで見守ってくれているライアーたちに、振り向かずにブイサインを送る。
「いくぜ」
〜つづく〜