複雑・ファジー小説
- Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.408 )
- 日時: 2016/02/01 23:32
- 名前: 揶揄菟唖 (ID: /dHAoPqW)
128・Do not push it and exist.
すさまじい衝撃に後ずさりそうになる。瞬間、足の先に力を込める。血が飛び散る腹なんかに気を取られている暇はない。
ひるまないおれに、一瞬だけ、彼の瞳が揺らぐのを感じた。構わない。畳みかけるように、頭をつかんで、膝で額をたたきつける。
鉄の味。畜生。最後のあがきがしぶとすぎる。生に執着しているのがよくわかる。なんなんだ。なんなんだこいつらの、生に対する執着は。
でもおれだってそうだ。おれだって、しがみついて生きている。
いろんなものに。いろんな人に。人の力は大きい。
……そんな人間になりたい。
多くの人の力になれる、いろんな人に頼られる。いろんな人の生きる力になれる人間になりたい。
浸るな。
おれはおれの体が限界に近いことをわかっていた。
熱がだんだんと、鋭いものになっていく。
からだ中を駆け巡る血液が冷えていることに気づいている。
今、おれは新しい領域にいる。
ビーストの力をうまく利用している。
だけど、体力が続かない。どれだけ強い力を出して、どれだけ早く移動したって、この体は初戦の少年のそれ。
息が荒くなっている。
早く決着をつけなければならない。
よろけるレジルの体にのしかかり、腕をひねりあげる。
瞬間、瞳の明るい緑が波打つのが、わかった。
その意味を受け取る余裕もなく、
「……ごめんな」
腕輪を外した。
+ + + +
やっちまったなぁ。どうするよ。
軽くなった手首を触り、嫌な解放感にため息を吐く。
負けた。
最後のあがきで銃弾をすべて打ち込んだのに、あの男はひるまなかった。
あいつだって体が限界だったはずなのに、あきらめなかった。
「……最悪だ」
本当に。
あと少しだったんだけど。
他に何かやっていれば。
この体でなければ。
『ごめんな』
うっせぇ、黙れ。
『俺がもう少し運動して、もっと強い体なら……』
うるせぇ、黙れ。
二人で、一つの体だろ。それに、気に入らねぇ。てめぇの体に俺様が寄生しているっていうのを、突きつけるな。てめぇが勝手に俺様を作ったんだろ。俺様を無視するなよ。
『ああ、……そうだな』
音が聞こえない。
あのクソッタレ雷瞑が何か言ったことは確かだ。
小さな影が、俺様とレジルを包む。
ガーディアンだ。
「……んだ、その顔」
思わずつぶやく。
どこもかしこもいてぇ。
最後の膝蹴りがキいた。
頭が割れたように痛いし、実際割れている。
額がぱっくりとさけて、視界が悪い。
もはや死にかけなのも相まって、瞳の桃色の輝きしか確認できない。
それでしか、ガーディアンを確認できない。
それなのに俺様は、ガーディアンがひどい顔をしていることを知っていた。
あいつがそういう顔をすることを、知っていた。
〜つづく〜