複雑・ファジー小説
- Re: 赤が世界を染める、その時は。参照200だから自画像描いた ( No.44 )
- 日時: 2012/05/10 21:55
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: yZ7ICI8F)
20・赤、狙われる。
見学、と言ってもやっぱり2人だけでは信頼が足りないようで、年配のひょろひょろとしたおじさんが私たちを誘導するようだ。
不服では無い。
丁寧に説明をしてくれるし、私のバカな質問にも嫌そうな顔1つとせずに細かく答えてくれる。
それが嬉しくて、質問をしまくっていると遂にライアーにうるせぇと一喝された。
全く嘆かわしいことだ。
私はいつもこんなに冷たい人と一緒に居るのだから。
でもコレでしょんぼりしてはいけない。こんなのでしょんぼりしていたら、ライアーとこの先やっていけない気がする。
「じ、じゃあこの壁……」
私はさっきから気になっている物を優しく撫でる。
私達が今居るのは、ハラダ・ファン・ゴ本社の入口から入って、正面に見える扉をくぐってエレベーターに一回乗った辺りだ。
詳しい現在位置は分からない。
でも明らかにカウンターがあったロビーの壁と今居る廊下の壁の材質は違う。
なんというか、ちょっとやそっとじゃあ穴どころかかすり傷もつかなそうな、頑丈な作りになっている。
そりゃあ、世界に誇るブランドの本社なのだから、警備はしっかりしていて普通だろうが、なんとなく気になった。
一体何処までの力まで耐えられるんだろう。
結構気になる。
だから聞いてみたんだけれど、どうやらライアーはそれをどうでもいい質問と受け取ったようで、立ち止まった。
それに気付いた案内役のおじさんも心配するような、慌てるような顔をしてこちらを振り返る。
私は直感的に、怒られるな、と思った。
ライアーはうるさいと言った。
それはつまり、黙れ、ということでそれに対して私は言うことを聞かなかったことになる。
ま、いっか。謝れば。
私の心はもうなんだか軽くなっていた。
最初の頃はライアーに怒られるのが怖かったし、ライアーが不機嫌になるのも恐ろしかった。
でも今は慣れた。ある程度。
だから、私は文句を言うであろうライアーが、振り向いてきた時もおっとりとした心境だったのだ。
ライアーが目を見開き、私の腕を強く引っ張るまでは。
+ + + +
ようやく、見つけた。
ずっとずっと探していたんだ。
夢に出てきて、うなされた日もあった。
幻覚が出る日もあった。
辛かった。
毎日が辛くて辛くて、もう消えてしまいたかった。
細かい光の粒となって誰にも悟られず、全てを終えたくなった。
そして、今日だってなんだか嫌な感じがして、落ち着かなかった。
それが始まったのは、ついさっきのことだけれど。
まさか、まさか。
ずっと探していてずっと俺を苦しめていた奴が、ここに来たなんて。
なんたる偶然必然運命。
絶対逃してやるものか。
捕まえて、八つ裂きにして、内臓をもずたずたにしてやる。
生きたまま皮をはぐのもいいな。
眼球を抉り出してやろう。
とにかく、苦しめて、苦しめて。
絶対に許さない。
俺はお前を、許さない。
廊下で呑気に歩いていたアイツに向かって、右手を突き出した。
この手がアイツの頭にめり込んで、頭の中身をぶちまけさせるんだ。
俺は、このためだけに生きてきた。
コイツを、コイツの。
コイツの、全てを終わらせるためだけに。
終われ。終わってしまえ。
お前は俺の手で、終わってしまえ。
ついでに俺も、終わってしまえ。
+ + + +
後ろから凄い音がした。
この間の森であったような、自然が生み出した音ではなく、金属が激しくぶつかる、人工的な音。
私は、何が起こったのか分からずに、ライアーの背中を見つめていた。
ライアーは私の腕を引っ張って、私を自分の背中に隠した後、私がついさっきまで居た位置をじっと見つめている。
ライアーは背が高いから私の視界を奪っていた。
分からないほうが不安だから、顔をそろりと覗かせると。
居た。
なんなんだ、アレは。
アレ? アレじゃない。あの人、だ。
でも私はアレを人と呼んでいいのか?
なんだか嫌な感じがする。
とてつもなく。
彼の人によって作られた様な茶髪も、右耳から出た突起も、プラグも、メモリがうっすらと見える色素の薄い青い右目も。
全部、怖い。
彼の右腕は私が撫でていた壁に、ヒビを入れて軽く破壊していた。
ちょっとやそっとのことじゃあ壊れないと思ったのに。
彼と目があった。
恐怖心が増して思わずライアーの背中に隠れる。
「アスラっ!!」
唐突におじさんが叫んだ。
もうどうでも良かった。
きっとそれが彼の名前。
でもどうでもいい。
怖いんだ。怖い。とてつもなく。
「その女を、寄越してください」
彼の声を聞いていたくなくて、私は耳に思いっきり掌を押し付けた。
〜つづく〜
二十話目です。
祝、二十話突破。
よく続いたなぁ。
私はこの間までテストだったのでパソコンを弄っていませんでした。
結局彼の名前ですが、今回出ることになりました。
仕方ないので友人をこき使い名前を搾り出させました。
そういえばこれまだ一章なんですよ。
プロローグも何も無い捻りの無い小説をこれからもよろしくお願いいたします。