複雑・ファジー小説

Re: 赤が世界を染める、その時は。参照200だから自画像描いた ( No.45 )
日時: 2012/05/11 19:09
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: 1HHiytFf)


21・赤、逃げる。


生暖かい自分の掌からは、いつもより速いペースで血の流れる音が聞こえてきていた。

それすらも怖い。

自分の掌でできる防音なんて、高が知れていたから、まだ彼の声は聞こえる。

ライアーの背中に自分の背中をくっつけると、少し安心できた。

まだ、ライアーはここにいる。

「……なんで」

ライアーが声を出したためか、ライアーの背中が少し震える。

本当に私も聞きたい。

なんで、私が。
どうして知り合いでもない彼に、命を狙われているんだ?
バカな私でも分かる。
彼はきっと私を殺そうとしているんだって。
確かな殺意は私に向いている。

「決まっています。俺の……大切な人の仇」

震えた。

得体の知れない恐怖が、私の体の何処からか沸いて出てきた。

「コイツがお前の大切な人を殺したのか」

違う。
私は生まれてこの方、人の命を奪ったことなんか無い。

信じて、ライアー。

私は両目をぎゅっと瞑った。

ただ、怖い。
彼が怖い。

「そうだ」

「アスラ! 大切なお客様だぞ!」

遂に我慢がきかなくなったのか、おじさんが声を上げた。

それでも目を閉じていても伝わってくる彼の殺意は、消えることは無い。
寧ろ強くなっている気さえする。

声を出すのも億劫になってきた。

怖い。

「おい、逃げろ」

ライアーが私の肩に手を置いたのに驚いて、目を開ける。

私は、ライアーの顔を確認することなんてしないで駆け出した。

怖かったから、一刻でも早く彼から離れたかった。
この間の森で私を攻撃してきたビーストなんて比じゃないくらい、怖くて。
今度こそオワリかと思った。

口の中の唾液を飲み込んで走り出した私は、もう逃げることしか考えていなかった。

ただその中でライアーのことが凄く気がかりだった。


 + + + +


赤女が逃げたことなんて確認している暇はない。
少しでも余所見をしたら来る。
俺の直感はそう告げている。

そういえば俺は今、剣とか、刀とか、ナイフとか、そういう刃物系を持っていないんだった。

不味いな。
銃はあるがこんなところで使ったってダメだ。

とりあえず、赤女の足音が聞こえなくなったところを見計らって口をあけた。

「どうしてアイツを庇う」

先を越されたがまぁいい。

俺は元々喋るのが苦手だから、相手が喋ってくれるのはとても都合がいいし、嬉しい。

「さぁな」

俺の答えはそっけない。

だって理由なんて物は存在しない。
俺が庇っているのは赤女ではなく、赤女の黒髪と黒目だからだ。
仕方ない。
俺にとっては赤女は大切な存在でもなんでもなく、どちらかというと面倒な奴だ。
喋らなければいいのにとさえ思う。
アイツは俺と違ってよく喋る。
しかもくだらないことをべらべらと。
本当に面倒な奴だ。

だけど。

「どうでもいいが俺の敵だな」

アイツが人の命奪う奴には、どうも見えないんだよ。


〜つづく〜


二十一話目です。
今回は少し短めでしょうか。
なんというか最近寒いので文章を打つのが億劫になってきていますね。
皆さんもそうでしょう。
私もそうなのです。
とかどうでもイイことを話したのは何も話すことがなかったからです。