複雑・ファジー小説

Re: 赤が世界を染める、その時は。参照200で目玉抉れた ( No.48 )
日時: 2012/05/11 19:26
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: 1HHiytFf)

24・赤が走っているとき。3


俺の今持っているこの刀の作者は、有名でもなんでも無い。
何か長所があるわけでも無いこの刀を、俺が持ち続ける理由はなんだったか。
俺は武器にあまり執着しないから、そんなのはどうでもいい。
ともあれ俺はこの刀を作った奴に会った事がある。
話したこともだ。
そいつの名前は『ファゴー』。
そいつはかの有名なハラダ・ファン・ゴの血を受け継いでいる。
だが能力に恵まれなかったためか、武器はあまり作っていない。
ハラダ・ファン・ゴの名に負けてハラダ・ファン・ゴの名前を捨てたとんだ意気地なしという奴だ。
俺も会う前から名前は知っていたが会ってみると、あぁ、なるほどなって感じだった。

何も背負ってこなかった小さな背中。
ひょろひょろとした身体。
優男。
その言葉が良く似合っていた。

そいつの家を訪ねて、俺は何かしらの武器を貰おうと思っていた。
俺は武器は要らないと思っていたのだが、カンコが武器を使わないのかと聞いてきたのでこれを機に武器でも使うかと思ったのだ。
そいつの機嫌を損ねてはいけないから俺は他人と話す口調で話した。
敬語って奴だ。
俺は敬語を話している俺自身が気持ち悪くて仕方ないが、親しい奴とそうでない奴との関係はしっかりと分別しておきたかったし、俺の性格がそうさせていた。
俺はニコニコしたままそいつの話を聞いてやった。
そいつは最初あまり話さなかったが、俺に害がないと知ると細い声で色んな事を話し始めた。

自分の先祖のこと。
自分にとって武器作りはなんでも無いと言うこと。
自分がプレッシャーを感じていたこと。
心底どうでも良かったが、俺は適当に相槌をして聞いているフリをしておいた。

ファゴーが毛の薄い頭部を撫でながら
「プレッシャーのせいかな」
なんていった時には流石に暴れだしそうになった。

何てつまらない奴なんだ。
さっきのは笑うところなのか。
冗談のつもりなのか。
俺は認めないぞ。
つまらない。つまらなすぎる。
まぁおれはかっこいい紳士だから、はははと声を出して笑っておいた。
けれどもうコイツの話には飽きていたので、本題に入ることにしたのだ。
「武器を寄越せ」
簡潔ではあったが、敬語で優しく丁寧だった俺の口調が豹変したことに、ファゴーはかなりうろたえていた。
「いやだ」
うろたえていたはずなのに、発せられた言葉はやけにしっかりしていた。
それは、まぁ、コイツに度胸があるって事だろ。
この場合は面倒だったから腹を殴って気絶させた。
最初からこうすればよかったのかもしれない。
後悔した。
さっさと帰りたかった俺は、ファゴーの部屋を物色し始めた。
そしてファゴーの名前が小さく刻まれた刀を見つけて持ち去ろうとした。

その時だった。

本気の力を篭めて殴ったはずだった。

それなのにその男はなんでもなかったかのように、喋り始めたのだ。
倒れたまま、俺をじっと見つめて。

君は淋しいのかい。大丈夫かい。私は心配しているのだよ。君は悲しそうな目をしているね。全てを信じきれないで居るね。私だってそうさ。同じだよ。信じてくれよ。君の哀しみは計り知れないね。何があったんだい。心がボロボロだね。傷だらけだね。今でも血が流れているね。そのことに気付いているかい。それは君の物だよ。私にだって見えるけれど君のものだ。君にだって大切な物だろ。大切な物が多いことはいけないことじゃない。だけど失くす物が多いことでもあるよね。リスクが高いね。私はそれが怖いんだ。色んな物を失うのが怖いんだ。君はそうじゃないね。強そうだ。傷だらけであるからこそ強いだろう。そうだろう。全てを理解した上で君は全てを嫌っているね。それは間違いなんかじゃないよ。だってそれは君が思うに間違いじゃないのだから。君の道は暗くて脆い。私の道は既にないのかもしれない。君は必死に道の上でバランスを保とうとしているね。無理だよ。いつか落ちるときが来る。それは今かもしれない。ずっと後かもしれない。それが分からないことを君は恐れているんだね。落ちたくないのかい。君は変わっているね。私はもう落ちたいよ。暗い闇と溶けたいよ。君も早く諦めたらどうだい。全てを捨てたらどうだい。君に力はないと認めたらどうだい。出来ないからこそ言っているんだ。君はもう全てを捨てることはできないね。大切な物ができたかい。小さい物だろう。その両手で包み込めるくらいの小さな物を、しっかり掴もうとして握りつぶしてしまう。それが君だろう。知っているよ。君はそうだね。いつからそうだったのかい。その大切な物を私にも分けてくれよ。触れさせておくれよ。ダメだといってくれよ。私を拒んでくれよ。
なぁ、ジャルド。

気付けば俺はそいつの頭を蹴っとばしていた。
いつそうしたのか忘れた、わからない。
最後に名前を呼ばれたのは覚えている。
本当にファゴーが言っていたことなのかも分からない。

黙れ。五月蝿いんだ。お前は。
俺の中に入ってくるな。
俺の耳がお前の声を聞く度に、焼けるように熱いんだ。
その熱は俺の頭にまで侵蝕してきて、やがて脳みそまで溶かす。
黙れ。
もうお前の事は忘れたい。

「あぁ、気分が悪くなったぁ」

俺は肺の中にたまっていた空気を吐き出した。

そこで漸く、自分の腹にナイフが刺さっていることに気付いた。

俺としたことが、考え事に耽っていて気付かなかったらしい。

「今から本気」

そう宣言してから、大分空けられたキティーとの距離を詰めようと走り出す。

キティーは慌てて2本目のナイフを取り出した。

やっと耳が冷め始めてきたような気がした。


〜つづく〜


二十四話目です。
最近更新がおおめ。そして長め。あとがき短め。