複雑・ファジー小説

Re: 赤が世界を染める、その時は。参照200で目玉抉れた ( No.50 )
日時: 2012/05/11 20:11
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: 1HHiytFf)

26・赤が走っているとき。5


全く、面倒なことになった。
俺は大体赤女の命なんてどうだっていいんだ。
赤女の黒髪と黒目さえ無事であれば。
そのためには、赤女には生きていてもらわなければならない。
もしアイツが死んだなら、俺は赤女の首だけを持って移動することになる。
そんなのは真っ平ごめんだし、アイツの黒目が心配だ。
死んだら瞳孔が開いて、あの黒真珠のような綺麗な濁りの無い目が、台無しになってしまう。
あれ、もし生きたままアイツの眼球を取り出したらどうなんだ?
あの黒目は健全なのだろうか。
赤女を生きたまま連れまわすより、そっちのほうが楽そうだ。

何て、今は考えている場合ではない。
そいつは一度吼えるなり、俺に突っ込んできた。
そいつの武器はそいつ自身の右腕らしく、指先まで尖らせて俺に向けている。
対する俺は生憎武器がなく、体術には自信がない。
俺はそんなに筋肉がつく体質では無いため、武道家には向かない。
そんなのは自分自身が一番熟知していた。

だが基本的なことは理解している。
奴の右腕を俺の身体に向けさせないように上手く流せば良い。
そのために俺もそれらしい体制をとった。

右手を引いて左手を少し前へ。
腰を低く落として奴から目は離さない。
距離はあらかじめとってある。

大丈夫だ。

そう思っていた。
奴は早かった。
俺の動きを予想して動いた。
咄嗟に突き出した俺の右腕をさらりと避けて、俺の懐に入ってきた。

ヤバイ。
不味い。

このままでは奴の右腕は俺の身体を貫通するだろう。
何の金属か分からないが、とにかく硬そうなこの会社の壁を少なからず破壊したのだ。
力は半端じゃない。
俺は胴体を守ろうと、そいつの右手を自分の左手で掴んで身体を左に投げた。
くるりと反転して奴を見つめる。
奴はまだ俺に背中を向けていた。
俺は左手を開閉してみた。
グチャリと嫌な音がした。
肉がそげている。
ちらちらと硬いものにあたる感覚がするから、きっと骨が少し出ているであろう。
想定したことでは合ったが、俺はアイツの速さのほうが凶器だと思った。
幾ら右手の破壊力が高くても、遅ければ意味がない。

だがアイツは速い。
速すぎる。
目で終えなかった。
消えたかと思った。

「速いな」

久しぶりに本音が素直に出た。
俺は素直ではない。
そんなのは昔からだ。
ずっと前からだ。
ただ、今言っておきたかった。

「褒めてる?」

そいつは俺を振り返ってきた。
何も映さない、ガラス玉の様な目の中のメモリが小刻みに震えている。
こっちからでは詳しくは判らないがそんな気がした。

「多分」

いや、褒めている。
俺はここでやっと素直では無い性格を発揮した。
聞かれた内容がなんだか気に食わなかったので、あえて曖昧にしておいた。
感じるところ、奴は攻撃して来ない様なので構わず左手を見た。

血がだらだらと溢れている。
止まる気配はなさそうだ。
やはり骨が見えている部分があった。
見てしまったら余計痛くなってきたので、目を放す。

「お前は、頭がいいな」

一瞬分からなかったが、どうやら褒められているようだ。
褒められるのは久しぶりではない。

つい先日、赤女にこの赤髪と赤目を褒められたばかりだ。
俺の赤髪は赤髪と言っても、茶髪に近いわけではなく、真紅だ。
本当に赤い絵の具をチューブから出してそのまま塗りたくったような色。
純粋な赤。
同じく瞳も少し暗いものの、純粋な赤だ。
その色を俺は心底嫌っている。
本当に気に食わない色だ。
俺の髪と言い、目と言い、赤女と言い。

「普通、自分の手を犠牲になんか咄嗟にできる芸当じゃあない」

段々と胸糞悪くなってきた。
そこまで何か言われるといっそ気持ちが悪い。
気味だ、気味も悪い。
慣れていないから少し身体に鳥肌がたった。

「……そうか」

絞り出した声は不自然じゃなかっただろうか。
今の俺にはそれを判定する能力はない。
なんだか頭がボケッとする。

あれ?
もしかして俺、自惚れてる? 喜んでる?
いやいや、このままではいけない。

俺は集中しようと右手で自分の頬をぶった叩いた。
良い音がした。
流石に両手で叩く気にはなれなかったけれど、コレで充分だった。

集中しろ。
今度は腕後と持っていかれるかもしれない。

「もういいか? このくらいで」

何がもう言いのかわからないが、もう攻撃してもいいかということだろう。
いちいち、なんだかわざとらしい奴だ。
気に食わない。
俺はもしかしたらコイツが苦手なのかもしれない。

「いいぞ」

俺は短く答えてさっきと同じ体制をとった。

そこで気づいたが、まだあのおっさん、逃げてなかったのかよ。


〜つづく〜


二十六話目ですね。
最近多く更新しているわけは本を沢山読んでいるからです。
本読むと、小説書きたくなりますよね!