複雑・ファジー小説
- Re: 赤が世界を染める、その時は。参照200で目玉抉れた ( No.51 )
- 日時: 2012/05/11 20:15
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: 1HHiytFf)
27・赤が走っているとき。6
ジャルドの腹にナイフが刺さるのを、私はただ見つめていた。
この角度からは分からないけれど、分かる。
ジャルドは今きっとボーっとしていたんだ。
それを見逃すほど、あの女性もバカじゃないってことだ。
甘くもないだろう。
数回くらいしか会ったことは無いけれど、ジャルドは彼女のことを気に入っている。
雰囲気で分かる。
嫌いという気持ちもあるけれど、興味もある。
ジャルドはその気持ちから目を逸らそうともせず、あぁ、そんなこともあるさ、見たいな顔をしている。
そういうところがジャルドの強いところなんだと思う。
それにしてもジャルドは何でボケッとしていたのか。
それは私も分かる羽目になった。
声。
声だ。
二度と聞きたくもない、最低最悪の外道の声。
その声が私の耳に何処からか侵入して来て、脳を侵していく。
もう2度と聞きたくもないのに。
あぁ、カンコ。私の可愛いカンコ。元気かい。元気そうで私は安心したよ。カンコが元気じゃないなんて私にはとても耐えられない。カンコ、少し背が伸びたかい?悪い事じゃあないね。だけど私の知っているカンコが少し変わってしまうというのも悲しい物だ。カンコ、身体は大丈夫かい。無理はしてはいけないよ。カンコは私のものなのだから勝手に壊れることなんて許されないのだよ。私の手から逃げたつもりかい。そういうところは成長していないのかな。子供のままだね。可愛いカンコ。私のものだよ。カンコは一生私のものだ。私はカンコをいつまでも見守っているのだよ。どうだい気分は。自分の見られない物から見られる気分は。不安だろう。時々うなされているね、カンコ。私が怖いのかい。心配することはないさ、カンコ。カンコなら大丈夫だ。カンコは私のものなのだからね。何も考えず、バカみたいな顔して生きるがいいさ。今はそうしていなさい。そしていつか私にその愛らしい顔が歪むのを見せてね。後カンコ、あの男に壊されないようにしなさい。あの男に汚されるようなカンコはカンコじゃないよ。分かっているね。カンコ。私のカンコ。私だけのカンコ。
「黙れっ……」
私は搾り出すように誰にも聞こえない声量で呟いた。
お願いだから黙ってくれ。
もう私を解放してくれ。
怖い。
あぁ、怖いとも。
私は世界で一番貴方が怖い。
いい加減私もうんざりなんだ。
貴方の声は私の身体に浸食して私を壊していく。
それがたまらなく気持ち悪くて、怖くて。
きっと今ジャルドも声を聞いたんだ。
時々私とジャルドに話しかけてくるあの声の正体は、私はもう分かっている。
この声の哀しみと恐怖から、ジャルドを解放してあげたい。
だから私と離れて欲しい。
私を捨てて欲しい。
でもしない。
ジャルドはしない。
私をはなしてはくれない。
私は結局それに甘えているだけだ。
ジャルドを苦しめたくないのに、私は1人になりたくない。
ジャルドはどうだろう。
ジャルドも私のように、1人になりたくないのだろうか。
私なんかといたくないだろうか。
聞くのが怖い。
もしそれでジャルドが私を否定したら。
私は。
どうなってしまうだろう。
1人なんて絶対嫌だ。
だからお願い。
私から離れていかないで。
私はこの思いを自分の胸にしまうしか方法が無いのだけれど。
〜つづく〜
二十七話目です。
今回は短め。
一息つきましょう。