複雑・ファジー小説
- Re: 赤が世界を染める、その時は。参照200で目玉抉れた ( No.53 )
- 日時: 2012/05/11 20:41
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: 1HHiytFf)
29・赤の恩返し。
考え事を止めたジャルドはやはり強かった。
あたしなんてコイツにかなうはずなかった。
そんなことは分かっていたけれど、ジャルドの腹にナイフを刺せたから、何となくいい気になっていたんだろう。
迂闊だった。
バカだな、あたしは。
あたしは仕事を何回か成功させているから、それなりに強くなっていたと思っていたのに。
なのに。
この男の前に立つと、全てが勘違いだったと言われているように感じる。
何も成長していない、と。
確かにあたしは何も成長できていない。
それどころか劣化しているかもしれない。
成功して、もしかしたらあたしはやれるんじゃないかって、強くなったんじゃないかって、思ったときコイツが現れてあたしを否定して、あっさりあたしを倒していく。
なんなんだよ。
あたしにもう少し希望をくれよ。
いいじゃないか。
あたしだって強くなりたいんだ。
自分を守っているだけで精一杯なんだ。
そんなのは嫌なんだ。
「もう終わりかな? キティー」
廊下に座り込むあたしを見下ろして、鞘に入れたままの刀を向けてくるジャルド。
クソッ……。
かつてあたしに向かって、コイツが鞘から刀を抜いたことがあっただろうか。
無い。見たことが無い。
悔しい。
悔しくてたまらない。
あたしはたまらなくなって、下唇をかんだ。
ジャルドが刀を振りかぶった時だ。
急にジャルドが見えなくなって、あたしの視界は赤くなった。
血?
違う。
血ではない。
血はこんなに鮮やかじゃない。
この赤は。
どこかでみた。
「わ、私の連れに何しようとしてんですか!!」
あぁ、コイツ。
あの時麻薬売りから助けた女か。
いかにもバカですよーって感じの。
え? 何でこんなところに?
「お?」
ジャルドも驚いているようだ。
当然だ。
いきなりバカ面の女が、意味不明なこと言いながら2人の間にわって入ってきたのだから。
あたしを、庇う気のようだ。
あぁ、バカだな。
コイツ。
救いようがない。
根性は認めるけれど、普通助けようとするか?
見ると、足は震えているし、情けないことこの上ない。
だけど、こんな奴でもあたしのために殺されるのは後味が悪いし絶対にさせたくない。
「ちょっと、アンタ……」
あたしは急いで立ち上がってコイツをかばおうとしたけれど、体の自由が利かない。
立ち上がれない。
何なんだ。
あたし、こんなに弱かったんだ。
バカだと思っていた奴に庇われるくらいに。
あたしはまた悔しくなって俯いた。
いつもならこんな姿ジャルドには見せたくないけれど、今は耐えられなかった。
あたし、何してるんだろう。
あたし、あたしは。
「これはこれは、お嬢さん、こんにちは」
気持ち悪いくらいしっかりとした口調になるジャルドが腹立たしい。
コイツの裏表が激しいことを知っている人はあまり多くない。
ジャルドはきっと、自分の本当の性格を知られることを恐れているんだ。
そんなジャルその気持ちは、あたしには分からない。
コイツは性格が悪いから分かりたくもない。
コイツの気持ちなんか。
ふとジャルドがあたしの方に顔を向けた。
それに気がついたあたしは顔を上げた。
何でこんなことをしたんだろう。
いつもなら、顔なんて合わせたくないのに。
ジャルドの目はあたしをしっかりと捉えている。
その目は本当に? という疑問の光を宿していた。
何が、本当なのかと言うと、あたしとこの赤い女が『連れ』なのかということだろう。
答えにくい質問にあたしはまた顔を下に向けた。
情けない。
何回目だろう。
こんな気持ちになるのは。
自分だけ取り残されているの事に雰囲気で気が付いたのか、赤い女が声を張り上げた。
「なんなんですか! やめてあげてください!」
今の状況を見て、あたしが危ないことに気が付かない奴はいないだろう。
コイツなら気が付かないことはありえそうだ。
大して話したこともないのにそう思った。
ジャルドは一瞬めんどくさそうな表情を作りかけたけれど、何とか持ちこたえて、人のよい笑みを貼り付ける。
「あー、危ないことはしていませんよ。この女性が気分を悪そうにしていたので助けてあげようと思ったのです」
「う、嘘です!!」
声は震えていたけれど、それは充分威嚇になったと思う。
証拠に少しだけジャルドが楽しそうに笑った。
あたしや少し離れたところで何やら顔を青くしている少女に向ける、本当のジャルドの笑みだ。
その表情を初めてみた赤い女は驚いたのか、怯えたのか、少しだけ後ずさった。
それでもなんとかこらえたようだ。
逃げ出さないのは立派だと思う。
「暴力はいけないです!」
勇気ある赤い女の行動に影響されたのか、あたしの体に少しだけ力が入ったのを感じた。
〜つづく〜
二十九話目です。
テストだったので遅くなりました。