複雑・ファジー小説

Re: 赤が世界を(略)参照300で内臓が口から出てきた。 ( No.55 )
日時: 2012/05/12 21:00
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: WylDIAQ4)


31・赤の恩返し。3


これだ。
直感した。
嫌な予感はその時が近づくにつれて、大きくなっていき、私の中の何かに食らいついていた。
嫌な感じがするのだ。
私の勘は鋭い。
私の勘は勘なんかじゃない。
事実だ。
私の感じることは大抵間違うことはない。
だからだ。
だから、怖いのだ。この女が。
全身を赤で統一した妙な女。
ジャルドはそうとしか思っていないだろう。
いや、もしかしたら。
ジャルドなら、そんなことは無いのかもしれない。
ジャルドも感じているかもしれない。
この胸騒ぎを。
なんだろう。
この感情は。
辛い。
胸の奥がちりちりと、少しずつ焼かれていく。
そんな感覚。感情。
この気持ちの持ち主はきっとこの女だ。

——————何故?
何故こんな間抜けそうな女こんな感情を?
もしかしたら、私よりも判断力は鈍っているかもしれない。
私はきっと変だ。
ジャルドと話が合わせられる。
きっとそれができる時点で変だ。
だけどこの女はもっと変だ。

この女は一体『今何処にいる』?

「ジャルド!」

久しぶりに大声を出して彼の名前を呼べば、私のほうを振り返ってくれた。

あぁ、良かった。いつものジャルドだ。

「どうした? カンコ」

ジャルドと向かい合っているその女と、その女に庇われている女は不思議そうな顔をしている。
最もキティーのほうは逃げ出す機会をうかがっているようだが、狙った獲物は逃がさないのがジャルドだ。
逃げられないに決まっている。
私がさっきから気にしている女の方は間が抜けているし、逃げるなんて事はこれっぽっちも考えていないだろう。
私は怖くて震える両手でスカートを握り締めた。

「……帰ろう?」

この場から離れたかった。
このなんともいえない哀しみの感情から逃れたかった。
私は迷わずにジャルドにそう提案した。
このままではきっと私、夜うなされてしまうようになる。

あの女は。
毎日こんな感情を抱いているというのか。
そんな人間には見えない。
でも確かに感じるのだ。
あの女からこの感情を。
何て恐ろしい。怖くてたまらない。
情けないとか、考えている暇はなかった。
逃げる。
それが最優先だと私の脳みそが告げている。

逃げろ、カンコ。
そいつは危険だ。

かすかだが、あの人の声が聞こえた。
いつもは聞きたくなくて憎たらしくて仕方ないのに、目の前にいる女に気をとられて、その言葉と私の直感に従いたくてたまらない。

「……カンコがそういうなら、しょうがないな」

ジャルドは不思議そうに肩をすくめて見せた。
唇を尖らせているあたり、あまり怒っているようではなさそうだ。
良かった。
でも後で質問攻めにあいそうだ。
疲れそうだ。
良かった。
こんなことを悠長に考えることができるのだから、大分落ち着いてきている。
そうだ。
落ち着け。
私らしくない。
落ち着いて、状況を見る。
ジャルドにもできることだけれど、1人より2人のほうが視野が広がる。
私は息を吸って吐いてから、近づいてくるジャルドの左手を右手で優しく包み込むように握った。

置いてきた2人の女をジャルドのように振り返ることはしなかった。


〜つづく〜


三十一話目です。
今回は久しぶりにカンコちゃん目線で。
最近喉が痛いです。
風邪じゃないのに。