複雑・ファジー小説
- Re: 赤が世界を(略)参照300で内臓が口から出てきた。 ( No.56 )
- 日時: 2012/05/12 21:04
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: WylDIAQ4)
32・赤の恩返し。4
「あ、あの、大丈夫ですか?」
心配しながらあたしの顔を覗き込んでくるバカに、うんざりする。
結局あたしたち2人はあの少女に救われた。
何を感じたのだろう。
あの少女は、あたしたちに。
いや、あたしたち?
本当にあたし『たち』なのか?
あたしとは初対面ではない。
ジャルドがカンコと呼ぶあの少女は、ジャルドと大体は一緒にいるから合うのは4度目くらいだったか。
良く覚えていない。
だが、あの少女の存在感が薄いわけではない。
いつも妙な、不思議な感覚を身に纏っている、そんな雰囲気を漂わせているからか、引かれる。
近寄ってみたいと思う。
触れてみたいと思う。
だけれど手が届かない。
見えない時空の歪みがあたしとカンコの間にあるような感覚に陥る。
きっとジャルドとの間にもこの歪みはあるのだろう。
カンコは本当に人間なのか?
別のもっとすばらしい、宝石のようだ。
髪は川の流れのように柔らかく、水色に透き通っている。
目は照らされた海のように輝いている。
コレは、奇跡の産物のように美しいのだ。
輝かしい綺麗な目でもなんだか不気味な要素を孕んでいる。
硝子玉なのだろうか、あの目は。
「あの……」
反応がないあたしの目の前に座り込んできたバカに、はっとする。
ボーっとしていた。
「……なんで助けたの」
恥ずかしくなったのでそっぽを向いた。
全く、あたし子供みたいじゃないの。
「それは、あの、町で助けてくれたので……」
申し訳なさそうに、あたしから顔を背けるバカ女の横顔を凝視する。
恩返しって事?
バカじゃないの。本当のバカね。
あんな腐った町で助けられることはそれは珍しいけど。それでも。
恩返しねぇ……。
恩返し、か。
「ちょっ!」
情けなくよろめいたあたしの身体を、バカが支えようと抱きついてきた。
よろよろとしているが、何とかあたしを支えてくれているようだ。
何てことだ、情けない。あたし今日みっともないことが多い。
「あの?」
「大丈夫」
「本当に?」
「ホント」
「嘘はよくないです」
そういうバカの腕は震えている。
怖かっただろう。
あたしだって未だにアイツの事は怖い。
何でか、分からない。
本当に分からない?
コイツの言うとおりだ。
嘘はよくない。
あたしは、きっとジャルドが良くわからないから怖いんだ。
ジャルドは何を考えているか全くわからない。
だから、怖い。
あたし、素直になったほうが楽なんだ。
「……用事があるの」
「なんですか?」
「手伝ってくれる?」
この身体で1人で歩くのは無理だ。
だから遠慮なくあたしはコイツを頼る。
情けない? 言ってられない。
もう仕事が最優先だ。プライドとか、考えている暇は無い。
あたしの言葉に、バカは嬉しそうにあたしの腕を自分の肩に回した。
コレで2人で歩ける。
少し頼りないけれど1人よりマシだ。
1人。あたし、いつから1人?
「もちろんです!」
うっかりありがとうと言いそうになったから、急いでそれを飲み込んで、あたしが行きたかったほうを指差した。
「こっちを、真っ直ぐ」
「え」
〜つづく〜
三十二話目です。
今回は会話文多め。
疲れました。
というか欲しい漫画がいつまで経っても本屋に並ばないのですが。
夢で買える夢を見るくらいになってしまいましたよ。