複雑・ファジー小説

Re: 赤が世界を(略)参照300で内臓が口から出てきた。 ( No.57 )
日時: 2012/05/12 21:08
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: WylDIAQ4)


33・赤の考え。


正直に言えば、優先順位は分かっている。
自分の方が大切だ。
でも手伝うと言ってしまった。
お姉さんの事は裏切りたくない。
だから。いや、でも。
考えろ。自分よ。
そのない脳みそを搾り出して考えるんだ。
お姉さんが行きたい方向は、今私が必死に逃げてきた方向だ。
また戻る?
もしかしたら私のせいで、ライアーが傷ついてしまうかもしれない。
私は足手まといだから。
どうすれば?
約束は破りたくない。
私だってプライドはあるのだから。

「どうしたの?」

切ない顔が一瞬ちらついた。
淋しいの?
そうなんだろうな。
お姉さんはきっと1人だ。
きっとずっと1人で生きてきた。
信用できる人がいないのだろう。
どうして分かるんだろう。
目? そんなので人間の全てが分かるわけ無い。
でもさ。そんな表情、一瞬でもされたら、置いて行けるわけないじゃないか。
私、お姉さんのこと1人にしたくないよ。
私も1人は淋しい。それは分かる。何でだろ。

私、1人だった時があった?
一瞬でも?
誰かがいる気がするんだ。
ずっとそばに居てくれたんだ。
いつでも、お母さんとか、お父さんとか。
私の手を握ってさ。
大丈夫だって。お前なら平気だって。
何が? 何が平気なんだっけ? 私は何が平気なんだっけ? 独りになっても?
いつ来るのだろう。
私が1人になるときって。
いつ? ずっと先? それとももっと先?
今直ぐ?

「大丈夫です。行きましょう!」

私は後悔ばかりなんだ。

後になってうじうじして。
また同じこと繰り返して。それでまたいじけて。誰かが励ましてくれるのを待って。進めなくて。そんな自分が嫌いで。大嫌いで。自己嫌悪に陥って。誰かが褒めてくれて。調子に乗って。また同じ失敗して。前の失敗も思い出して。グルグル。成長しないで。進んだ気になって。
本当に、バカだ。

「お姉さんは、何しに来たんですか?」

私は、重い足取りを無理矢理に動かしながら、お姉さんの金髪を見ながら呟いた。

頑張れよ。それでもいいから。進もうとしろよ。

そうやって自分を励ました。

「……あんたには正直に話すわ」

ただし、誰にも言ってはいけないと、お姉さんは念を押した。

私は約束を守るよ。
お姉さんを私のせいで、危ない目に合わせたくないから。

私の黒い目をお姉さんは一度その美しい青い目に映してから、話し始めた。

「あたし、ある依頼のためにハラダ・ファン・ゴの新作の本物を取りに来ているのよ」

「本物?」

「そう。ちなみにあんたが背負っているそれは偽者。折れたでしょ?」

「あ、はい」

「あんたのせいじゃないわ。ちゃんと作られてないからよ」

「あぁ、そうだったんですか……」

少し、ホッとした。
私のせいじゃないのか。それは良かった。
そしたら私、ライアーについていく必要がないじゃないか。
そうだな。自由になろう。別れを告げよう。
私のせいじゃないんで。さいならーみたいな感じで。

ん?

「ってことは泥棒!?」

私が驚いて大声を出したためか、お姉さんはあきれたように息を吐いた。
ごめんなさい。
でも、いや、驚くでしょう? 助けた人が泥棒なんて。
ってことはもしかしてあの男の人はこの会社的には良い人……?
社会的にも良い人……?
そんで私は泥棒を助けたって……。

「そうよ、泥棒。仕方ないのよ。一気に金が稼げるんだから」

「でも泥棒はよくないです!」

それでも私の足は止まらない。

泥棒? わかってる。
でも、それ以前に私に止まらない理由はあるんだ。
だって泥棒以前に、お姉さんじゃん。

そんな私の様子を見て、お姉さんが横で小さく笑いながら吐き出した言葉は、もう私の中では定着していた。

「あんた、相当なバカね」


〜つづく〜


三十三話目です。
最近会話大め。
そろそろ一章が終わる頃かと!
頑張ります!