複雑・ファジー小説

Re: 赤が世界を(略)やっと一章完結! ( No.61 )
日時: 2012/05/13 13:20
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: TRpDG/gC)


1・左手。


「あ、ライアーさん」

重い瞼を上げると目の前には赤女がいた。
アレ?
一体何があったんだ?
そういえば。思い出してきた。
ハラダ・ファン・ゴなんて行くんじゃなかった。

「だ、大丈夫ですか?」

ホテルに戻ってきたところまでは覚えている。
それから俺はとにかく眠たくて、ベッドに倒れこんで。
それからだな、記憶がないのは。

「ごめんなさい……。私の我が儘のせいで……」

赤女は、俺が横になっているベッドの左側の椅子に、腰を下ろした。
申し訳なさそうに目を伏せている。
多分、俺の左手を見たのだろう。
油断した。
俺の左手はもう包帯でぐるぐる巻きにしてある。
かなり綺麗に仕上がっているし、痛みはないから医術士がやったのだろう。このバカに医術が使えるとは到底思えない。

「……あぁ」

左手を動かそうとすると、赤女が俺の左手をがっしりと掴んだ。
ピリッと痛みが一瞬走った。
まだ完治はしていないようだ。
でも顔には出さない。
赤女が大騒ぎしそうだから。

「本当に、ごめんなさい」

赤女の両手が緩んで、そっと俺の左手を包み込む形になった。
何か、変な感じ。

「別にお前のせいじゃないだろ」

さらさらと、重力にしたがって滑り落ちる赤女の黒髪を見つめながら、そんな言葉を吐き出した。
俺に優しい言葉なんて似合わないはずなのに。

赤女は顔を上げた。泣いてはいなかったが、今直ぐにも泣き出しそうな表情だった。
うわ。どれだけ自分の事追い込んでいるんだ、コイツ。バカだろ。知っているけど。こんな奴だって事は。

「また、借りできちゃいました」

そうやって無理矢理笑う姿もバカらしい。

1発殴ってやりたくて、立ち上がろうとすると、赤女が立ち上がった。
唐突だったから驚いて動きが止まる。

「あの、医術士さんに治療を頼んだんですけど、そのときに、しばらくは動かないほうがいいって」

「……なんで」

久しぶりに俺らしい不機嫌そうな声が出た。
よし。その調子。最近ちょっと変だったって、俺。しっかりしろよ。

「結構な殺気に晒されて、身体に思っている以上の負担がかかっているって」

再び申し訳なさそうになる赤女。
そんなに俺は怖いか。
それもそうかな。
いつだって眉間に皺がよっているって誰かに嫌味を言われたことがある。
誰だったかな。

「でも、私が色々身の回りのことを、して差し上げますから!」

安心してください! と叫んで買出しに出かけた赤女に、俺の頬は引き攣っていた。

 + + + +

何とかしなくては。
ほら、また。空回りしている。
しっかり逃げていれば、あんなことにはならなかったかもしれない。
私のせいだ。
私の我が儘のせいでライアーは怪我をした。
酷い傷だった。酷く疲れていた。
私のせいだ。
私はどうして狙われているの? 私、何か悪い事した?
分からない。
身に覚えがない。命まで狙われるくらいの憎しみが、私に向けられている?
分からない。どうして。
でも、分からないをずっと放置しちゃいけないでしょ。
進めよって。
何度言えば分かるんだ、この馬鹿。
頼るなよ。
私がライアーを支えなきゃ。
麻薬には引っかからない。絶対。お姉さんから教わった。
頑張れ。私。
ライアーの身体から疲れが取れるまでの間。少しだけの間。それだけを支えていこう。
まずは小さなことから、だよね。
面倒事には巻きこまれないようにしよう。うん。


〜つづく〜


二章スタート!
一話目です。
短めになりそうです。
新キャラはまだですかね。
頑張ります。