複雑・ファジー小説

Re: 赤が世界を(略)やっと一章完結! ( No.63 )
日時: 2012/05/13 13:29
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: TRpDG/gC)


3・きぐるみ。


気がついたけれど、ライアーのために私は一体何をしようとしているんだ? 看病? そんなことをしたって、彼はきっと嫌がるだろう。
相当頑固なのだから。
私に看病されるくらいなら、と無理をしてでも動きそうだ。
それを阻止するために私は調節をしないと。
ライアーが自分でやれると思ったことはしないようにしないと。
そうしないと、ライアーの身体に負担がかかる。
借りを返すどころか、またお世話になってしまう。
最近は私のせいでゆっくりできていないはずだから、今だけはゆっくりして欲しい。
なら私にできることは食事を作ることだろうか。
結構な歳月1人でいるから料理はできる。人並みには。
でもそれを人に食べさせた事はない。正直不安。
ライアーは不味い料理は床に放る事だってしそうだ。
怖い。やっぱり人に否定されるのは嫌だ。誰だってそうだろう。

そのためには、やはり金が必要なので、私は今現在仕事を探している。
そりゃあライアーに頼むほうが早いだろう。
でも、私はそこまでライアーに頼っていいのか? ダメだろう。
それじゃあまるで飼い犬だ。
私は人間なのだから、自分で何かするときの金は、自分で用意したほうが良いに決まっている。

「お嬢さん」

後ろから声を掛けられたのに気が付くのには、時間がかかった。

だって私は、求人のチラシがたくさん張られた掲示板を、凝視していたからだ。
仕事をやるといってもアルバイトで、いつでもやめられるものが良い。良いに決まっている。
いつライアーの調子が戻り、この町を離れるかわからない。
いや、本当に離れるのだろうか。
というかライアーは何のためにこの町に……?

「お嬢さん?」

「ハイ?」

2回目の呼びかけに対して私は振り返った。
いつかのように麻薬を売られないか心配だったが、この間のような言ってはいけないことだろうか、その、みすぼらしい格好ではなかったので少し警戒を解いた。
でも、人は見かけによらない。
でも見かけだけで判断するのは、極めて危険なので警戒を完全に解くことはしない。
一応引っ掛けにくい女性を演じたいところだが、お姉さんのような雰囲気は漂わせることはできないということは百も承知なので、あまりバカそうな顔をしないように、気を引き締める。

「何を探しているの?」

彼は優しそうな笑みで眼鏡を押し上げた。
悪い人ではなさそうだ。
おっと、いけないいけない。
もっとしっかりしないと。
面倒事に首を突っ込んではいけない。

「あの、仕事を……」

そこで口を押さえた。ダメだ。
私はなにも成長していない。
あまり知らない人の質問に答えてはいけない。自分の情報を教えることになるからだ。

「仕事? 若いのに?」

遅かった。
今からでもこの人から距離をおきたい。
1人で町に出るんじゃなかった。怖い。お姉さんにでも縋りたい。
それじゃあダメなのは分かっているけれど。
人を信じることが怖い。この町じゃあ、いつ騙されるか、いつ人生を間違えることになるか全く分からない。
それだから私は、いつまで経ってもバカなままなんだな。救われないよ。

「なら、そうだな……うちで働く?」

「や、やめておきます!」

即答だった。
でもここで断っているなら、私はきっと一生仕事を探すことなんてできないだろう。
でもこの人はなんだか怖い。
求人の紙のほうが怖くない。

「そお? キミ、ぴったりだと思うんだけどなぁ」

「え」

思わず声を出してしまったことを後悔した。
確かに興味が沸いた。
私にぴったりってなんだろう。すっごく気になるけど、口角がいきなり上がったこの男の人の、顔を見るのが怖い。
思わず目線を下げそうになったけれど、ギリギリ保った。
それにしても、この人背が高い。気にしない。
顔が近い。き、気にしない。

「ど、どんな仕事なんですか……?」

バカ野郎。
バカの塊だ、私は。
決意したこととやっていることが真反対だ。
辛い。こんなバカな私にうんざりする。
私ってこんなバカだったんだ。知らなかった。
ライアーと出会って私は、良く自分を見直すようになったと思う。

男の人は目を細めて笑った。
もう怖くなかった。
でも近かった。鼻と鼻がくっつきそうだった。背中に壁が当たっていた。

コレで怖くないって、私、もうどうにかなってしまったのだろうか。

「きぐるみの仕事!」


〜つづく〜


三話目です。
今回は少し長め。
この男の人キャラが濃いですけどモブにしようか迷っています。
どうしよう。