複雑・ファジー小説

Re: 赤が世界を(略)おなかすいた ( No.69 )
日時: 2012/05/13 13:57
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: TRpDG/gC)


9・会話。


「ライアーさん!」

俺の不安は杞憂なのかと思うほど、赤女は元気だ。コイツは落ち込んだ時は底辺まで落ち込むが、明るい時はとことん明るい。

まぁ、暗い時よりは全然いいだろう。

「ん?」

なんだか、コイツと喋っていると口調が優しくなる気がする。
本当はむかついているはずなのにな、可笑しい。なんか、変だ。

なんとなく、痒くも無いのに頬をかいた。

赤女の話を聞くべく、本から顔を上げたら赤女の黒目が驚きに染まる。
変な感じがしてまた本を読み始める。
いや、違う。
全然本の内容が入ってこない。
おかしい。好きな作家のヤツなんだが。

「今日はいい話しを聞きましたよ」

ニコニコするコイツに釣られて、笑いそうになったので、急いで口元を押さえる。
赤女はそんな俺の素振りなんて、気にしていないようだった。
やけに喉が渇く。
なんだ、コレ。

「へぇ」

読みきってもいないのに、ページを指先で捲った。

そうするとなんとなく落ち着いたので、息を吐き出す。

しばらくしても赤女が反応しない。
気になって、赤女が座っている方向に顔を向けると、口を少しだけ開けて眉をひそめていた。

息が詰まる。
唾を上手く飲み込めなかった。

なんだよ、その顔。

「い、や、なんでもないです。なんか、ごめんなさい」

俺と目を合わせていたのは、数秒だけだった。
赤女は、急いで顔を俺から背けて、椅子から立ち上がる。
俯いていて、表情は上手くくみとることは出来なかった。

そして、そそくさとドアに向かう。

「え、おい」

やっと俺の身体動いた頃には、赤女は部屋を出て行っていた。

え、なんだよ、コレ。
ワケ分からねぇ。


 + + + +


『まだだよ』

ドアノブを握ろうとしていた手を、思わず引っ込めた。
アレ、何してんだろ。早く入ればいいのに。

今日はいい話を聞いた。
人の笑顔を作ろうとする、素敵な人の話。

それをライアーに話したかった。
面白おかしく身振り手振りに。
ライアーも楽しんでくれるように。

笑ってくれるように。

『あぁ、ちょっと事情が変わったんだよ』

きっとライアーは私に気がついていない。
私がこうして、ライアーの話を聞いていることを、知らない。

コレは盗み聞きだ。悪い事だ。今直ぐ止めないと。
でも、身体動かない。

『ん? 今のところ話は聞かないな』

1枚の、こんなドアを隔てた先で、ライアーが話している。
相手の声は聞こえないからきっと電話だ。確か部屋にあった。

一体誰と?

『今は無理だ、そのうちな』

ライアーは親しげに話している。

私と話しているときは、つまらなそうにして、最低限の言葉しか返してくれないのに。

あ、あ。最低だ。
私今、最低だ。
なんなんだよ。
嫉妬? 違うよ。
何で私が、ライアーのことで、こんなにもやもやしなきゃいけないんだ。

今日の給料が入った封筒が、私の手の中で握りつぶされた。

何してんだ。
慌てて引き伸ばすけれど、皺になってしまった。

私には、関係ない。
ライアーのことなんて、関係ないよ。

『……あぁ、またな』

なら、早く部屋に入ればいいのに。

やけに胸がかゆくて掻き毟った。
まったく収まらなかった。


〜つづく〜


九話目です。
アルェ〜?
こんな話にするはずじゃなかったのに?
まったく〜勝手に動くなよな〜。
困るぜ〜。

ハァ。
まいった。