複雑・ファジー小説

Re: 赤が世界を染める、その時は。【二章完結!ぐへへ】 ( No.86 )
日時: 2012/05/24 18:50
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: wDvOBbcg)


5・バカだから。


ここは日本ではない。
確信に変わった。
絶対に日本では無い。

「おい、どうしたんだよ」

目の前の、明らかに日本人では無い少年が、首をかしげた。

彼の肩までかかるくらいの髪は白く、右の顔の横の髪に赤いメッシュが入っている。そして瞳は上のほうが赤く、下のほうが青い。
日本人じゃないだろ。なら何人だよ。
ライトノベルの登場人物みたいだ。

私は口をぽかんと開けっ放しにしてしまう。
私は一体何処の世界に来たんだ。

帰りたい。帰りたい。家に帰りたい。宿題が終わっていない。明日も学校だ。お腹が空いた。お母さんの手料理が食べたい。帰りたい。絶対に帰る。もう帰る。夢であってくれよ。起きろよ。目を覚ませ!

「銀、フード」

馬のような動物の上に座って、馬車を動かしていた男の人が、地面に降りて私に近づいてきた。

彼の言うように白い髪の少年の服には、フードが付いていた。
少年は慌ててフードを被る。
男の人が私の頭を掴んで上を向かせる。乱暴な手つきに少しむかついた。

男の人は銀と呼ばれた少年よりも、深くフードを被っていて目どころか髪の毛も見ることができない。
背が私よりも高いから見上げる形になっている。頭から手を離してほしかった。
でも、言えない。
威圧感がある。
抵抗しようものなら殺されてしまいそうだった。
自然に手が震える。怖い。怖いんだ。口の中が乾く。

「おい、喋れないのか?」

手を放せ。そうじゃないと喋ることが出来ない。少し距離をおきたい。
私は心の中でそう呟きながら首を横に振った。精一杯の否定だった。

「ムーヴィ、離してやれよー。女の子だぜ? アシュリー以外の女の子なんて久しぶりだよ、俺」

ムーヴィ。アシュリー。もう日本人の名前じゃない。
終わった。希望がない。ここは日本じゃない。

銀は、私をじっと見つめながら窓の淵にあごを乗せた。その笑顔は人懐っこくて、まるで子供みたいだった。

「でさぁ、なにしてんの? 変な服だね」

銀は私の服に手を伸ばす。
でも届かなかったので諦めて腕を引っ込めた。
ムーヴィというらしい男の人も、私の頭から手を離す。
良かった。やっとあの変な息苦しさから解放される。

「私は……行く所が無くて……」

これ、ホント。信じて欲しい。私には行く所どころか、出発した場所もない。
私はこの草原にぽんと置かれただけだ。知らないうちに。無自覚で。無意識で。無責任に。無責任は少し違うか。

「行く所……?」

その言葉に、銀もムーヴィも顔を顰めた。
何だ。何かいけないことを言ったのだろうか。

「なら、俺たちと一緒だな」

さっきまでの暗い顔とは一変して、銀はまた子供のように歯を見せて笑った。

銀とはよく言ったものだ。
彼の髪はキラキラと日を受けて、銀色に光っていた。


〜つづく〜


五話目です。
2人の方に鑑定をしていただきました。
変換ミス、!や?や、の位置や…に指摘を頂きました。
初歩的なことをミスっているので気を引き締めていきたいです。
1〜10まで訂正を行ったつもりでしたが、もう一度訂正をしなおします。頑張ります。