複雑・ファジー小説
- Re: 赤が世界を染める、その時は。【二章完結!ぐへへ】 ( No.88 )
- 日時: 2012/05/24 18:55
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: wDvOBbcg)
7・言葉だけじゃ足りないだろう。
「私たち、どうして生きているんだと思う?」
雪は今もなお、降り続けている。緑色の草の上に落ち、やがて溶ける。
きっと明日には積もってしまう。そうしたら歩きにくくなって、大変だ。でもなんだか良いような気がしてくる。
私たちは、逃げないといけない。ずっと、これからも。それでも急ぐ旅ではない。
ピンチになったらその時に急げば良い。
でもなんでだろう。パルや銀、それにムーヴィと一緒だと、そんなピンチ、無いような気がするんだ。そんなもの、楽しんでしまいそうだ。
私きっと、みんながいるだけで幸せって、そんなことだけで思えるんだ。
前までは幸せなんて、私は掴めないと思っていた。簡単に手に入るものじゃないと、思っていた。幸せの意味なんて分からなかった。だけど今は分かる。
私にとっての幸せは、みんなが楽しくて、笑っていること。自由に生きていること。それが、幸せ。誰にも邪魔されたくない、幸せ。
「なんだよいきなり。変だな、アシュリー」
パルは困ったように空を見上げた。雪が鼻についたのか、鼻を軽く擦る。
私の側でパルはずっと立っている。私は座っているのに。きっと、見張りのつもりなんだろう。
私はパルの服を摘んで引っ張った。
座るように促したつもりだったが、私の思いは届かなかった。
パルは私をチラッと見ただけで、また空に視線を戻してしまう。
これと同じ服を着ている彼等は今、元気だろうか。
「気になっただけ。ねぇ、パルはどう思う?」
本当に、ふと思っただけだった。
パルなら私は心から信頼しているし、無言でも堪えられるが、でも、何となく言ってみたかった。暇つぶしだ。
「あの日、さ、お前が言ったこと、まだ憶えてる。多分、アレが俺の中では一番納得した。だから、アレ」
「え……? 私、憶えてないかも」
私はあの日のことを思い出してみるが、それっぽいのは見つからなかった。
パルはあきれたような表情を作りながら私の隣に座った。
やっとしゃがんでくれて、少しホッとする。
もっと楽にして欲しかったんだ。私を特別扱いしないで欲しい。
「ほら、お前が銀に言ったこと」
パルは私の鼻を指でつつく。
私は嫌でもなかったので、パルの暗い夜のような、紫っぽい黒髪を眺めていた。
「あぁ……『私たちは、』」
「『死ぬために逃げるんだ』」
思い出した。
あの日、私たちは逃げ出した。あの地獄から。
1人で逃げるつもりだったのに、ぼーっとしていたパル、パニックを起こしていたムーヴィ、それからしゃがみこんでいた銀を助け出した。
余裕は無かったはずだ。でも、助けなくてはいけないと思った。
無我夢中だった。余計なことをしたら逃げ遅れると分かっていた。でも、放っておけない自分が居た。
「俺……あの時アシュリーが助けてくれなかったら、まだあそこにいたかもしれない。いや、絶対逃げ遅れて、あそこで死んでた」
そしてパルは私の顔を見つめた。
不思議と惹き付けられる、怪しく光る鮮やかな緑の瞳は、あの日よりももっと綺麗になった。
「だから、アシュリーには感謝してるんだ、ありがとな」
〜つづく〜
七話目です。
今回はシリアスばっかり。書き辛い。