複雑・ファジー小説

Re: 赤が世界を染める、その時は。【二章完結!ぐへへ】 ( No.89 )
日時: 2012/05/24 18:57
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: wDvOBbcg)


8・魔術自体が魔術。


魔術が嫌いだった。

俺の人生を縛り付けて、絶対に離さない、魔術。
それでも俺は、どんなに魔術が嫌いでも、魔術に縋るしかない。
魔術は俺の生きる意味で、生かされている意味だ。

「私の可愛いパル」

母さん。
魔術に取り付かれた俺の母さん。
大好きな、たった1人の母さん。

母さんは俺が嫌いだった。
俺は母さんの好きな、魔術が嫌いだから。

「パルは才能を持っているのよ」

そう言って母さんは、俺に魔術を勉強させた。

嫌で嫌でたまらなかったけど、母さんは魔術が好きな俺が好きだから。
だから、頑張った。

薬も使った。
母さんが、俺の為に作ってくれたから。
母さんの魔力が詰まった薬を、毎日飲んだ。

身体が苦しくても、吐き気がしても、幻覚が見えても、魔力が自分と釣り合ってないんだって分かっていても。

「パルは可愛いわ」

母さんが好きだから。
俺には魔術しかないから。

頑張って魔術を身体に叩き込んだ。

母さんが俺を見てくれればそれで良かった。
俺を、褒めて。
俺に、生きる意味を。

そう母さんに縋って生きてきた。
でも結局母さんは、俺に生きる意味をくれなかった。

そこで漸く気付いた。

俺、何やってるんだろ。
嫌いだった魔術に縋っていただけだ。
母さんは俺じゃないんだ。
魔術しか、無い。母さんが残してくれた魔術しか、俺には。
でも俺に魔術がちゃんとできるだろうか。
母さんがいないのに、俺が魔術?

出来るわけ無い。
魔術を制御するのが苦手だった。
母さんが居るから制御できた。
でも、母さんはもういない。

「パル、私は、母さんは、絶対戻ってくるわ。いい子で待っていなさい。私の可愛いパル」

母さんは悪い事をした。
だから、こうやって封印されるんだ。
納得がいかなかった。

母さんは、何も悪くない。
悪いのは、母さんが愛した魔術だ。

でも、母さんや俺から魔術を取ったら何が残るだろう。

「パル・トリシタン。哀しみの子よ。貴方は母の様になってはいけません」

白く美しい魔女だった。母さんを封印した。
怒りは湧いて来なかった。魔術の魔の手から、母さんを救ってくれた。
そう感じたんだと思う。

白い魔女は決して笑わなかった。
母さんの封印が成功しても、決して勝ち誇ったような顔をしなかった。
それは封印が完璧じゃないから。それだけが理由では無い気がした。

白い魔女は俺の髪を撫でた。
白い瞳で俺をじっと見つめていた。俺に何をされるか分からないのに。
俺の力じゃ、白い魔女には届かない。
その白い皮膚に傷を付けることすら。

「赤き時代はもう戻って来ないのです」

レッドエイジ。
名前は聞いたことがあった。
沢山の人が死んだ。

その時代と母さんに何の関係が?

白い魔女に聞く前に、俺は落とされていた。あの地獄へと。


〜つづく〜


八話目です。
今回は少し複線を。
回収でき無そうな複線ばっかりw