複雑・ファジー小説

Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.9 )
日時: 2012/05/09 20:55
名前: 揶揄菟唖 (ID: LQdao1mG)

7・赤、黒と戦う。


「そういえば」

倒れている木をまたぎながら、私はレッドライアーに問いかける。

わぁーすごいコケだな。

「レッドライアーさんはなんでこの依頼、受けようと思ったんですか?」

私が受けた依頼だ。

つまり、簡単。

ドワーフ3体を倒してくるだけのものだ。
いや、確かにビーストは怖い。
でも他にいつも私がやっているような採取の依頼がなかったから仕方なかった。

そんな初心者向けのものをなんでレッドライアーともあろう人が?

「このドワーフは昨日のギガントの子供だ」

一瞬、何を言ったのか分からなかった。
思わず立ち止まる。

それに気付いたレッドライアーが私を振り返る。
不機嫌そう。

「俺が親を倒したんだから子供も俺がやるべきだろ」

理由は話した、だから早く歩け。
そう言っているのが表情だけでわかる。

でも。
分かってるけど。

「ちょっ、えぇっ!?」

ようやく声が出た。
うるせぇという声がボソッと聞こえた。

でも。
わかってるけどさ。

「き、昨日のギガントの子供!?」

あのデカイ犬の、鱗の犬の、子供!?

息を大きく吐き出して私のほうへ痺れを切らしたレッドライアーが一歩近づいてきた。

反射的に一歩下がる。

足にさっきまたいだ木がぶつかった。

「そんなの勝てるわけないじゃないですか!」

「はぁ?」

初めてみたレッドライアーの驚いた顔を拝む暇もなく自分の震えた声が喉から吐き出される。

「私帰ります」

いそいそとその場を離れようと来た方向に踵を返すが、ジャージの襟を掴まれる。
いわずもがな、レッドライアーだ。
首が絞まるのでやめてほしいなんて口が裂けてもいえない。

なにをしてくれる。
私は帰るんだ。
……逃げるんだ。
チャンスを手放すんだ。
情けない。
けど、レッドライアーの足を引っ張るわけにもいかない。
もしかしたら、レッドライアーが傷ついてしまうかもしれない。
それが嫌だ。
怖い。

「……大丈夫だから」

聞いたことががない声音だった。

それは酷く優しいもので。

それが自分に向けられて発せられたなんて、信じられないくらいだった。

「……足、ひっぱっちゃいますから」

「だから、大丈夫だって」

少し強くなったものの変わらない優しさと温かさに満ちた声に私の心にはもう怖いという感情はなくなっていた。

単純なものだ。

それだけで、怖くないなんて。

「……はい」

ジャージから手を離してもらい、やっと歩き出す。

「まぁ、子供だし親がいないからほっとけばそのうちくたばるんだけどな」

じゃあなんで、と思ったけどあえて声には出さない。

これ以上不機嫌になってもらっちゃあ困る。

それからはお互い無言だった。
私はさっきのことの罪悪感でとても話題をふれるような精神状態じゃない。
でもそうすると無口なのかは知らないけどあまり自分から話そうとしないレッドライアーが相手では話が浮き上がることはない。

「ついたぞ」

しばらくしたころ、レッドライアーが口を開く。
そして二人で木陰に身を潜めた。
レッドライアーが指差す方向には巣らしき物があり近くに2匹の犬がいた。

昨日見たギガントとは違い鱗も生え揃ってはいないようだ。

……それにしても。

「……でかくありません?」

じっと犬を見つめるレッドライアーを見上げる。

こうしてみると近い。
近くから見ても整った顔立ちは変わらなかった。

「そうか?」

ダメだ。
話にならない。
あれででかくないなんて神経狂ってる。

親のほうがたしか5メートルくらいだった。
こわかったから実物より大きく見えただけかもしれないけど、大きかった事に違いはない。

で、だ。

子供というからもっとこう、可愛らしいものを想像していた私をあざ笑うかのように『子供』は大きかった。
2メートルほどか。
笑えない。

可愛らしいものを想像していたけどなんで逃げようとしたのかといえば、あの凶悪なギガントの子供なら可愛らしいけれど凶暴な所は変わらないと確信したからだ。

そこは、合っていた。

現にアイツらは2匹で赤い塊を貪っている。

たまにちらりと見える牙は親のものと同じで鋭い。

「マズイですよ、帰りましょう」

ビビリな私の言葉には興味がないようでレッドライアーは腰に下げていたホルスターから猟銃を取り出す。

手入れがしてある、綺麗な銃だ。

私は銃に詳しくない。
銃のブランドも、種類も、性能も。
だからレッドライアーが持っている銃がどれほどのものかはわからない。

ただ、輝くそれはすごく美しかった。

レッドライアーは丁寧な、慣れた手つきでそれに銃弾をこめていく。

2発。

少ないような気がするがレッドライアーの判断はなんでか全てが正解に思える。

「行くぞ」

静止。

私の行った行動はそれだった。

だって行くぞ、なんていわれても動けない。動けるはずがない。

そりゃあ、レッドライアーはこういうのに慣れているだろうが私は初めてだ。

私がついてこないことに不信感を抱くだろうが後で謝ろう。
そうしよう。

すばやく銃を使いたまに腕の仕込みナイフで応戦するレッドライアー。

凄い。
速い。

完全に押している。

あんな化け物相手に怯む事なくレッドライアーはあっという間に2匹のドワーフを倒した。

?

2匹の、ドワーフ?

あれ、たしか、標的は。

「っおい!!」

レッドライアーの声が遠くでして。

私の近くで聞こえていたのは荒い、獣の息遣いだった。


〜つづく〜


七話目ですね。
あっというまに七話目です。
これからもがんばります。
二桁に到達したいです。
今回で!や?や・・・の使い方を変えました。
こっちのほうがいいそうなので。
初めて知りました。


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