複雑・ファジー小説
- Re: 赤が世界を染める、その時は。【二章完結!ぐへへ】 ( No.91 )
- 日時: 2012/05/24 19:27
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: wDvOBbcg)
10・彼女は強い。
雪、という物を見るのは実は久しぶりだった。母さんは冷たい魔術がお気に入りだったから、雪を良く降らせていたけれど、母さんが封印されて、あの施設に送られてから、全く見る機会が無くなってしまっていたからだ。アシュリーもきっとそうだ。
俺はアシュリーが、どういう経緯であの施設に入ったのか知らない。アシュリーも俺の事情を知らない。銀のも、同じく。ムーヴィは大体分かる。俺は、ムーヴィがフードをとった顔を、知っているから。
俺たちの間では、そういう話題に触れるのは禁止されている。いや、そこまでしっかり決めたわけじゃないけれど、でも誰も触れようとしないから、多分聞いちゃいけない空気が出来上がっているんだ。
銀でさえその空気を理解している。あの、銀でさえも。
銀はバカだ。
なんというか、正直で、素直で、子供っぽくて。だから多分、俺の予想では銀は俺たちの中では、一番あの施設に居た時間が長いと思う。きっと、まだ小さかった頃の施設に入れられて、知識も何も付かないまま、育ってしまったんだ。
でも、綺麗だ。
銀は、素直で、名前通りに綺麗な銀色の心を持っている。誰にも嘘をつくことの無い、汚れの知らない、心。だから俺は銀が好きであり、嫌いだ。
どうして俺なんかを信用しているんだ。俺は、汚い魔術に溺れた、最悪の人間なのに。
「ねぇ、パル」
アシュリーもなんで俺なんかを助けたのだろう。1人で逃げることも出来たはずなのに。俺たちを助ける余裕なんて無かったはずなのに。
本当に、あの時アシュリーが助けてくれなかったら、俺たちは。
「どうしたんだ? もう出発するか?」
俺が立ち上がろうとすると、アシュリーは俺の服を摘んだ。どうやら、そうではないようだ。俺は少し微笑んで、もう一度座り直す。
「お願いがあるんだけど」
アシュリーはあの日、あの施設から脱出した時と変わらない、強い意志の様な物が篭った瞳で俺を見つめている。
そのオレンジがかった茶色の瞳に、吸い込まれそうになる。
「うん」
俺は、アシュリーを助けたい。俺が助けられた時のように。アシュリーに幸せになって欲しい。俺は、アシュリーのために何でもしたいと思う。
それが、俺の幸せだから。
「あのね、魔術を教えて欲しいんだ」
「え?」
驚いた。アシュリーの口からそんな言葉が出るとは思わなかったんだ。
どうして、アシュリーが?
俺は、アシュリーのしたいことを、やらせてあげたい。
でも、アシュリーが魔術を?
いいのか、それで。魔術は俺から何もかも奪っていった。
そんな魔術を、アシュリーに?
本当は、嫌だ。母さんのようになって欲しくない。
でも、アシュリーだったらならないと、信じている。
そう、だよな。
アシュリーなら大丈夫。
魔術になんか、囚われない。
俺はゆっくりと、頷いて見せた。
〜つづく〜
十話目です。
わーはやーい。
三章は何処で終わるかまだ全く決まっていませんw