複雑・ファジー小説

Re: 赤が世界を(略)参照500なので少しずつ誤字修正 ( No.97 )
日時: 2012/05/14 21:28
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: JSuMRn8G)



13・それはまだ夢の中。


「だから、何の用だよ」

ムーヴィは少し歩調を早め、私の横についた。
私は馬車に近づきながら、それを指差した。ムーヴィも馬車を見つめる。中には、銀が居るはずだ。
今はもう落ち着いただろうか。

「銀がうなされているみたい。なんとかして」

「は!?」

ムーヴィは驚いて、一瞬立ち止まった。だがまた歩き出す。さっきよりも、歩くペースが速い。
どうやら、焦っているようだ。だが、心配している自分を私に悟られたくないのか、さりげない。

「なんで早く言わないんだよ!」

ムーヴィは私の頭を軽く小突いた。
私は、とうとう走り出したムーヴィの背中を見つめながら、のんびりと歩く。

なんで、そんなに焦っているんだろう。銀は、彼のなんだろう。
仲間、何だろうけど、だけど、それよりギクシャクしていて、固い、絆。

「逆に、どうして私がそこまで気を使わなきゃいけないわけ?」

馬車についたムーヴィが、中に駆け込んでいく。
私は呑気に空を見つめた。
月が出始めて、少々明るい。夜歩いたことなんてあまり無いから、新鮮だ。この前、友人とカラオケに行った時、帰る頃にはこのくらいの時間だったか。あの時は、楽しかった。2人きりのカラオケ。友人と私は、音楽の趣味が合うから。

そういえば、好きなバンドのアルバムを、一緒に買いに行こうって約束していたんだ。それまでに、帰らないとなぁ。

「銀っ! おいっ! 大丈夫か!?」

ムーヴィが開けっ放しにしていた扉から、中に入る。ムーヴィは銀を抱き起こして、必死に揺すっていた。
銀がそっと目を開く。そうすると、ムーヴィは安堵のため息をついた。

「……ムーヴィ……」

「銀……なぁ、おい、大丈夫か……?」

銀の目に涙の膜が張られる。少し、泣いていたようだ。
情けないの。どうして泣くの。男の子の癖に。女々しい。

「……アシュリーが、いないんだ。……ムーヴィも、いない。……パルも……」

銀が、ムーヴィの首に抱きついた。
まるで。子供みたい。私は、笑いたくなった。でも、笑えなかった。
ムーヴィの銀を抱き返そうとした腕は、力なく、垂れ下がった。
ムーヴィは銀を抱くことなんてしたくないようだ。大切だからこそ、自分は触れたくないのかな。良く分かんないの。

「俺、怖い……。……もう、やだ……」

私の腕も、いつの間にか銀のほうに伸びていた。私はそっと、その腕を押さえつけた。


〜つづく〜


十三話目です。
なんか題名考えるのが大変。ふふっ。