複雑・ファジー小説

Re: 坂道リズミカル ( No.9 )
日時: 2012/04/05 01:49
名前: しおぐり ◆cP1G9Wr7dw (ID: k9gW7qbg)

 三つ目の駅、つまり目的地に着いて電車のドアが開いたとき、沈黙がちょっとましになると思いほっとした。社交的じゃない、自分と同じ『種類』の人だと思っていたけど、「掴み所がない」。
 唐澤はさっと立ち上がると、すたすたドアへ歩いて行ったので、私も慌ててついていった。
 一歩電車を出ると、ホームはやっぱりあっちの駅より人が多かった。それでも混雑してるというほどではない。
 人をよけ唐澤に着いて進みながら、ポケットから携帯電話を取り出した。鍵同様ストラップもついていない、白いシンプルなものだ。開いて時間を確認すると、一時半。またすぐポケットに戻した。
 そして、改札口を出て、しばらく進んだとき。突然、唐澤が立ち止まって振り返った。
 私もつられて立ち止まる。
 唐澤は、視線を彷徨わせて口を閉じたり開いたりした。まるでさっきの、送っていくことを言い出す私みたいに迷ってるようだった。
 さっきから彼を不審に思い始めた私は、眉根を寄せた。「何?」
 唐澤は軽くうなずくと口を開いた。
「繁華街のほうに、バンド仲間が手伝いをしてる喫茶店があるんだ。よかったら、一緒に寄っていこう」
 私は少し目を丸くした。喫茶店……ちょっと興味がある。それに、断るのも気が引けて——。
「唐澤がいいなら……」
 そっけない返事になったけど、ちょっとだけ心が躍っている自分に、自分自身が驚いた。思えばこんなふうに誰かと喫茶店に行くなんて、随分久し振りな気がするから。なゆとは学校でだけの付き合いで、二年生になってからほとんど一緒に過ごしているけど、遊んだことが未だにない。浅い付き合いなのだ。向こうはどう思っているかは分からない。
 唐澤はただもう一度頷いた。その表情が、少しだけ安堵したように見えたのは気のせいだろうか。
 再び歩き始めた彼に続いて駅を出ると、車通りの多い交差点が目の前に広がる。その向こうにはデパートや様々な店が立ち並んでいた。何回か来たことがあるのだから、勿論知っている。
 土曜日の昼頃の繁華街は人が多かった。ざわざわとした人ごみの向うで、ショーウィンドウから流行りの洋服が覗いている。
「こっち」
と唐澤は人が行き交う横断歩道の向こうを指さし、歩き始めた。