複雑・ファジー小説

Re: 黒ウサギ×銀色蝶々 キャラ、アドバイス募集中です ( No.23 )
日時: 2011/10/29 17:30
名前: 白月 (ID: P6IPfdWt)

 第三話『あの人』





「それじゃ、お父さんっお母さんっ。いってきまぁーす!」

「いってらっしゃい」

「夕方には戻ってくるんだぞ。いいな?」

「わかってるよっ」

 昼。1人の男の子が、嬉しそうに家から飛び出してきた。
 お昼ご飯を食べたばかりなので、走りすぎると少々脇腹が痛くなり、顔をしかめた。
 しかし、男の子はそれでも走り続ける。

「はやく、はやくあの子に……ふふっ」

 痛いのに、笑いを漏らすということは、相当楽しみで大切な用事があるのだろう。
 自分をせかしながら、どんなことを話そうかと想像しながらひたすら、森に向かって走り続けていた。
 と、向こう側から他の子供たちが5、6人やってきた。

「おい、なにそんなに急いでんだよー?」

「友達と大切な用があるんだよっ! だからいそいでるんだ」

 本当は引きとめられるだけでも嫌なのだが、仕方なく足を止め、子供たちの問いに答えた。
 男の子は、『あの子』に早く会いたくてたまらない様子だった。

「どこいくのよぅ?」

 と、あからさまに不機嫌な顔をしながら、リボンをつけた女の子。

「ひみつ!」

 男の子は悪戯っぽく、にかっと笑うと「じゃーなー!」と手をぶんぶん振りながら走り去っていく。
 子供たちはというと。

「むぅ〜こんどこそいっしょに遊んでもらうからな……!」

 むくれた顔で怨めしそうに、その背中を見つめていた。
















 男の子は、森の中を駆け抜けていく。
 器用に枝を避けて、草を避けて……。
 
 ————ゴン!

「いってぇ……なんでこんなところに枝なんか……」

 ぶつかった拍子に尻もちをついてしまった。
 男の子は、自分の真上ににある枝を、涙目になりながら忌々しそうに睨みつけた。


 だが、走り続けていて、息なんてとっくのとうに上がり切っていた。
 でも、早く『あの子』に会いたくて会いたくて。

「はぁはぁ……あと、もうちょっと!」

 そう切れた息で呟きながら男の子は、森の中の不思議な光の輪っかに飛び込んだ。








 



 ————その先には、花畑が広がっていた。


 息を整えながら、辺りを見渡す。
 すると、一つの人影が見えた。
 それが見えた瞬間、男の子は顔をたちまち輝かせた。
 すると、また地面を蹴り、子犬のように元気よく走り始め、嬉しくてしょうがないと言った様に手をぶんぶん振る。

 「おぉーいっ!————!」






 名前を呼んだその瞬間。

 ————突然、目の前が真っ暗になった。


















 

「……う、ん」

 と、恐る恐る瞼を開ける。
 すると、あるのはいつもの天井だった。 

 クロトは、ベットからゆっくりと身を起こした。
 まだ、寝ぼけ眼で目覚めは少々悪そうだった。
 と、急にしかめっ面をして、頭をかきむしる。

「……また、あの夢か」

 クロトはどこか忌々しそうに呟いた。
 あの夢とは、クロトが何かと心が不安定になっているとき、必ずと言っていいほどよく見る、多分、子供のころの夢。
 多分、というのもクロトが覚えていない年頃の夢だからだ。
 6歳くらいまでの記憶はある。でも、そこから突然飛んで3年後————つまり、9歳くらいからの記憶から、今に至るまでの記憶はあるのだ。
 だが、どういう訳か9才になるまでの3年間の記憶がない。
 ようするにクロトは記憶喪失だった。

 ————しかも、子供の頃だけの記憶が抜け落ちたという、変な。
 どうして、こうして夢では見たりするのに思い出せないんだろうか。分からない。
 ……ああ、分からないって本っ当にイライラする。そんなことを思い、クロトは思い出せない自分に向かって舌打ちした。

 

 だが、分かることもあった。

 
 

 

 ————果て無い愛しさ。
 

 それは、あの花畑の人影から感じるものだった。

 でも、その人影はあまりにも遠すぎて面影も分からないし、ましてや男か女かもわからない曖昧なもの。
 けれど、とてもとても愛しい人なのだと。本能がそう告げていた。


「……まぁ、考えても仕方ない、か。」

 クロトは身じろぎをすると、壁時計を見た。
 10時47分。いつもなら朝食作りと稽古のために5時ごろには起きている。
 しかも、仕事で遅くまで起きているなんてよくあること。
 寝だめは出来る時にしておかなければ。
 だが、そろそろ起きないとまずい。腹が空いていて今にも腹の虫が鳴き出しそうだ。

「まぁ、いつか思い出せるよな。そういう夢は自身に根強く張っている思い出だとも言うし……」

 どこか、自分に暗示をかけるように言い聞かせながら、ベットから降りて、部屋を出ると、顔を洗うために洗面台へ向かった。