複雑・ファジー小説

第5話「思い出と不器用な優しさと」 ( No.13 )
日時: 2011/11/15 23:26
名前: 神村 ◆qtpXpI6DgM (ID: no9Kx/Fb)

またまた更新遅れて申し訳ない……。最近の風邪は辛いね((
さてレイスさんのターン。





第5話「思い出と不器用な優しさと」


   アイツと初めて会ったのは俺がまだ悪ガキをやってられたまだ幼い頃。

その頃からアイツの瞳は酷く冷たかった

例えるならば、ガラス玉、宝石などの無機質なもの

これって生きているのか

他の奴からすれば冗談じみていると笑うだろう

でも本気でそう思ったんだ。

だってよ、その頃のアイツって

しきたりで性別がわからねぇ格好してたんだぜ?

人間かどうかも疑わしい、そう思える奴だったんだ。

何故ならその頃のアイツに名前なんてなく、

『神子様』なんて呼ばれていたのだから






 レイスはハッと目を覚ました。なんつう夢を見ているんだ俺。やっぱグラディスと同じ姿になっているからかねぇとレイスは苦笑した。

 今のレイスはグラスと全く同じ姿をしていた。銀の髪、金緑の瞳、白い肌に少し尖った耳、豪奢な法衣。違うところ挙げろと言われたら表情しかない程グラスそのものだった。それだってレイスの演技力を持ってすれば問題ない。伊達に右腕を名乗っていた訳ではない。

 今レイスはグラスの私室の執務机で様々な書類と格闘しているところだった。

「しかし、やっぱ六十年のブランクはでっかいよなぁ……。いくら俺が優れた宰相だったからって……」

 ぶつぶつと文句を言いつつ、正確無比に書類を片付けていく。そして片付ければ片付ける程レイスの顔に笑みが広がっていった。

「おっ!グラディス、頑張ったんだな。こんなに政治が整っているなんて。これはまさに民の為の政治だ」

 そして「そっか、アイツ約束忘れていないんだな。まったく、不器用な事だよ」と言いながら優しい笑みが浮かぶのを止められなかった。

 昔、かつてこの国はとある国と戦争をした。九十九年前の事である。その国はゼガン王国といって世界の三分の一を支配している国だ。対するこのウェルネス帝国はその十分の一の大きさの国だ。圧倒的な国力と軍事力の差。更に追い打ちを掛けるようにグラディスの前の皇帝、つまり父親がその戦争で討ち取られた。

 負けが決まったと将軍ですら思った時に、グラディスは皇帝に即位し伝説の大剣を持ってこう言った。自国の大勢の兵士に向かって。

「皆の者!よく聞いて欲しい。私はまだこの戦に勝機があると思っている!皆私についてきてはくれまいか」

 グラディスがそう言った時に皆不平不満を漏らした。何せ国土は徐々に持っていかれて四分の一は陣取られていたし、精鋭部隊は先帝とともに皆殺しにされた。そしてその時のグラディスは無表情の生意気な若造ぐらいにしか思われていなかった。俺だって好きではなかったし。

「いや無理でしょう?神子様。今の私たちのどこに勝機があると?」

 一人の兵士がそうグラディスに質問した。まだ即位したばかりで皇帝よりも今まで呼ばれていた“神子様”と呼ばれていた。皆口では言わなかったが同じ思いを抱いた。この人はこれ以上無駄な犠牲を出すのか?と。

 しかし、グラディスは自信に溢れた声で、

「あるぞ。今はまだ言えないが。そうだ!皆、この戦に勝つ事が出来たら願いを一つ叶えようじゃないか。なんでもよいぞ。偉そうにしている神官くたばれ!でもいい」

 あまりに揺ぎ無い声で言うものだから皆呆然とした。この頃のこの国の政治は腐りきっていた。神に仕えるはずの神官が政治に口出しし、汚れた金に手をつけ甘い汁を吸っていたのだ。この国の皇帝は神官長みたいな事もやっているから、仕方ないと言って。

「どうした?皆もっと明るい未来を言ったらどうだ?何年かかっても絶対に、叶えよう」

 普段無表情なグラディスがこうも堂々と言い切り胸を張るだなんて。結構衝撃的だった。

「ほ、本当に?」

「ああ、任せろ。男に二言はない」

 一人が恐る恐る確認するとグラディスは大きく頷いた。皆グラディスの対等に扱おうとしてくれる心が嬉しかったのだろう。それを皮切りに次々と声があがった。

「じゃ俺たち平民が安心して暮らせるようにしてください!」

「神官の汚職駄目だろ!」

「そうそう!クリーンな政治を目指して貰いたいもんだぜ」

「あと学校だって充実させて!」

「病院だって!」

 などなど。普段たまっていた政治への不満が次々にあがる。グラディスはそれを嬉しそうに聞いていた。己のやるべき事を見るように。

「よし!皆!これから伝説の再現といこうじゃないか!」

 グラディスが大剣を掲げそう叫ぶと皆嬉しそうにおおっ!と雄たけびを上げた。こうしてグラディスは兵士の士気を上げ、その他様々な手を使って圧倒的な勝利を収めたのだ。

 俺はそのグラディスの一面を見てからコイツの為に仕えようと決意したものだった。

「そん時の約束の結果がこれか……。まったく律儀というか」

(これで普段の無愛想がなければなぁ。というかアイツやる事なす事いちいち目につきにくいんだよ!誤解されまくりじゃねぇか)

 俺がやらかしたのだって元を正せばアイツのそういう変に不器用なところが原因と言えなくもない。まぁ今じゃ皆グラディスが凄いと理解して神様扱いしているが。確かにアイツは優しい。けれどそれが一部しか見えていないだなんてもったいないと思わないのだろうか?レイスは書類を片付けながらそう思った。

「ま。俺には関係ねぇな」

 たまには、複雑な感情を学んでもらいたいもんだぜと今は遠い空間にいる悪友にむけて言った。届く事はないが。