複雑・ファジー小説

Re: 六花は雪とともに【外伝の題名募集中・第十三章更新!!】 ( No.273 )
日時: 2012/01/01 18:36
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: geHdv8JL)

最終章 明日への物語

 平成二四年、三月。最上学年生は、卒業を迎えていた。


「……これで、この物語はお終い」


 ここは佐保姫神社の境内。佐保姫は階段に座り、少女に『昔話』を語っていた。


「どう? 卒業祝いにはなったかしら?」


 佐保姫が言うと、少女は、ええ、と答えた。
 少女は紺色のセーラー服を纏っていた。長い髪をポニーテールにしている。赤いリボンで結んであり、それがかえって黒い髪がより一層鮮やかに見えた。
 そしてその少女は——あの、雪乃の顔に瓜二つだった。


「でも、妖なんていないと思うけれどなー」

「あら? 神様である私は信じておいて?」


 少女の言葉に、悪戯っぽく佐保姫が言った。少女は、それとこれとは違うの! と反論する。


「だってさ、佐保姫は私が生まれた時から付き合いがあるし、それに私、この神社の巫女だし」

「貴方が見えていないだけで、本当にいるわよ?」

「……まあ、貴方が言うのならそうだと思うけど」


 そう言った途端、美雪、と少年の声が聞こえた。


「あ、いけない。杏平君待たせてたんだ」

「あら。じゃあ、行ってらっしゃい。彼氏と一緒に、上京ね」


 佐保姫が言うと、美雪と呼ばれた少女は顔を真っ赤にしながら走り去ろうとした。


「美雪」


 佐保姫が、去ろうとした美雪を呼び止めた。


「美雪はどう思った? その雪乃っていう雪女は、幸せだったと思う?」


 その質問に、美雪は目を瞬かせ、やがて微笑んで言った。


「……そんなの、私には判らない。どちらも辛かったし、悲しかったのだと思う。
でも、自分が望むようになったのなら、私はそれは奇跡だと思う。——だから、その人はその奇跡が叶って、幸せだったと思うよ」


 その言葉に、今度は佐保姫が目を瞬かせた。が、すぐに笑って、そうか、と答えた。


「美雪。——卒業おめでとう」


 そう言うと、美雪は笑ってありがとう、と言い、杏平と呼ばれた少年の元に駆け寄った。
 その杏平と呼ばれた少年もまた、顔が杏羅に瓜二つだった。


「——美雪と杏平は覚えている筈はないでしょう。新しい誕生として生まれ変わる時は、記憶を全て失わなければならないから」


 二人の後ろ姿に、佐保姫は微笑みながら呟いた。
 あの二人はもう、雪乃と杏羅ではない。美雪と杏平という別人なのだ。それでも、生まれ変わりである美雪の言葉に、佐保姫はほっとした。


「——私は覚えている。そして、美雪がそう言うのなら、私はあの時止められなくて本当に良かったと思う。——こうして、貴方達は結ばれたのだから」


 そう言って、佐保姫は社の中へ消えた。——また、美雪が帰って来た時にひょっこり現れるだろう。









 この物語を読んでくれた皆様は、どう想ったのだろうか。
 最初に佐保姫が語ったように、あるいは共感、あるいは反感を抱いたものも居るだろう。その時、もしも自分がこうだったら……を思い浮かべて頂きたい。きっと、どういう選択が正しいのか悩むだろう。
 悩んで、自分で選択を選べることが出来たなら。それは、輝かしい貴方だけの物語である。雪乃が美雪として、杏羅が杏平として、また新たに輝かしい人生を歩むように。
 そう、次は貴方が物語を紡ぐ番だ。その物語を紡ぎ終えたら、こっそり私にも聞かせてもらいたい。



                                              終わり