複雑・ファジー小説
- Re: 夕方三時の図書館。 ( No.5 )
- 日時: 2011/11/08 17:47
- 名前: 星野由羽 (ID: ozRWO7nE)
- 参照: http://www5.hp-ez.com/hp/yuugatasanji/page1
1 出会いは、図書館にあり。——partⅠ
空気。
俺は、その言葉が嫌いだ。
見えないけれど、実はそこに存在している——そんな言葉の意味が、嫌いだ。
——なぜだって? 俺が、その“空気”だからだ。
そりゃあ、自分がクラスの中で、なんとなく存在しているってことくらい、わかっていた。
でも——、いや、だからこそかもしれない。
「中神? あいつの下の名前って、何だったっけ?」
「ばか、そりゃあないだろ。確か——はじめ?」
「そうだったか? あいつ、空気みたいだからなぁ」
こんな会話が聞こえてきても、仕方がないのだ——。
俺の名前は、中神 意知。発音は、「なかがみ いち」。決して、「はじめ」ではない。まあ、「いち」も「はじめ」も、「一」と書くから、間違えやすいのだろう——。
そう、思うことにした。
最近、何もかもが面倒くさい。部活だって、行かなくても心配されない。声すらかからない。
そう、俺は、存在を肯定してくれる人を見つけそこなったのだ。
そのことに気が付いたのだが、真実が体にまとわりつくのも嫌だ。俺は体を震わせると、夕日に染まり、真っ赤になった廊下を歩きだした。
すぐそばの教室には、例の発言をしたクラスメイトが、教室掃除がせっかく整えた机を一か所に集め、大きな声でしゃべっている。
見つかったら嫌なので、俺はバッグを強く抱きかかえ、あまり早くはないが、走り出した。
何に逃げているのか、わからなくなるまで、走った。
すると、中庭で話し声が聞こえたので、ふ、と目の前を見ると、談笑している女子生徒が数名、俺の前を横切るところだった。
「ねぇねぇ、こんなうわさ聞いたことある? 『夕方三時には、不思議な図書館が開く』って——」
「嘘! あたしが聞いたのは、『一面が星空の、きれいな図書館が存在する』ってことだけど」
「あ、聞いたことある! 確か、『案内人は、銀髪の帽子屋』、とか!」
スカートの丈が短いのと、バッグの色で、一学年上の、三年生だとわかった。
にしても——一面が星空の図書館? 案内人が帽子屋? 訳が分からない。どうせ、そこら辺にごろごろ転がっている、怪談や噂話だろ。
「それにしても、数学の教師さぁ……」
話題が変わったので、耳を立てるのをやめた。でも、さっきの噂は興味がある。
今はちょうど三時ちょい前だ。探してみる価値は、ありそうだな……?