複雑・ファジー小説

Re: dis 3011 ( No.1 )
日時: 2011/12/01 09:28
名前: 秋原かざや ◆FqvuKYl6F6 (ID: 76WtbC5A)
参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode

◆スタートライン


 ---------------カツン。
 波紋のように広がるように響くのは、高いヒールの音。
 黒いエナメルの、高いヒールのついたブーツが、軽やかにアスファルトの上に着地していた。
 黒のレギンス。機能性を重視した動きやすそうな、体にぴったりとフィットした、黒のワンピース。
 そして、ふわりと落ちてきたのは、長く艶やかな黒髪。
 地面を感じて、顔が上がる。
 開かれた瞳は大きく、淡い桃色であった。
 その唇が、嬉しそうに開かれる。
「ここが、3011……」
 彼女は、物珍しそうに、辺りを見回した。

 ------なんて素晴らしい。
 手を伸ばせば、すぐ届きそうな場所に。
 いや、そこかしこに。
 あふれている、『生』。
 耳を澄まさなくても、分かるほどの『生』。
 こんなにも、この街は、『生』にあふれている。

 ------ドクンッ!

 聞こえてくる。
 満ちあふれる『生』に打ち震えるかのように。

 ------ドクドクドクドク……!!

 この胸の鼓動が早くなる。
 まるでそう! 『生』に歓喜するかのように!
 収まることを知らないようだ。

 彼女は、そっと胸に手を当て、そして、歩み始めた。
 ------------------カツンカツン。
 ヒールを鳴らして、歩き出す。
 口元には、喜びに満ちた笑みを浮かべながら。

 暗い路地だというのに、なんてこんなにも素晴らしいっ!!
 スモッグで見づらい星を見て、彼女は笑いそうになった。

 この向こうには、あふれんばかりの『生』が、確かにそこにある。
 走り出しそうになる衝動を抑えながら、ゆっくりと光の先へ向かう。
 そう、彼女は新たなスタートラインを踏み出そうとしていた。

 ----------そのときまでは。

 バチンッ!!
 体が弾けるような。
 電撃が足の先から、頭のてっぺんまで突き抜ける。

 同時に、地面に倒れる衝撃を、彼女は感じた。

 -------油断した!!

 そう思ったときには既に遅く。
 視界が暗転するも、その意識はこれから起きることを入念に知らしめていた。
 動かそうにも動かせない、両手。両足。
 恐らく、彼女の死角から誰かがスタンガンらしきものを使ったのだろう。
「あうっ」
 何かが覆いかぶさったかと思えば。
「ぐふっ」
 頬や腹部に激痛が走る。

 悲しかった。油断しなければ、こんなことにはならなかった。
 こんなにも素晴らしい世界を前に、私は、こんなにも油断してしまった。
 予備知識として得ていた、暗い路地に要注意というフレーズが頭に過ぎる。
 けどもう、遅い。

 最期に訪れたのは、凍てつくような胸の痛み。

 私は忘れない。
 忘れるものか。
 私には、大事な使命があるのだ。

 --------そう、この手で、『世界を救う』のだ。



 所変わって、とあるアカデミー。
 そこに学生が集っていた。
 若い者も、老人もそこにはいた。そんな彼らが全て、学生であった。

 肩まで届く髪を乱暴に、後ろになびかせる。
 睫毛の長い、大きな瞳。
 自分の手の中にあるスマートフォンで、今日の講義時間を確認しつつ。
「あれ? 誰か呼ばなかった?」
 顔を上げた、その声は、やや高いものの確かに男のものだった。
「旬!! 遅刻するよ!!」
 呼び止められて、旬はすぐにアカデミーの建物の中へ、次の講義へと向かう。

 新たな時間。
 新たな場所。
 そして、彼らの物語が始まる。
 3011年の栄華を誇る、巨大都市・東京で……。