複雑・ファジー小説

Re: dis 3011 ( No.2 )
日時: 2012/01/31 09:36
名前: 秋原かざや ◆FqvuKYl6F6 (ID: 76WtbC5A)
参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode

◆彼らの日常

 ホワイトボードに浮かぶのは、3Dで飛び出す架空のウインドウ。
 そのウインドウ一つ一つに、今日の講義内容が表示されていた。
 学生達は、それを見ながら、講義を受けている。
 もちろん、手元にあるモバイルパソコンにも、同様の内容が表示されていた。

「そして、世界大戦を引き起こした世界恐慌が再び起きたのです。未曾有の状況に世界の誰もが絶望を感じました。また戦争が起きると……」
 そこで講師でもあるリュートは、新たなウインドウを表示させた。
「しかし、世界を揺るがす戦争は起きませんでした。彼らが取った行動は、更なるビジネスを打ち出すこと。それを更に活性化させることで、世界的な恐慌を打破したのです」
 と、リュートの指し示すポインターが、ある一文を浮かび上がらせる。
『シャイニング・シティ・プロジェクト』
「今、私達がこうして生きていられるのは、長年建築され続けている、国家的プロジェクトのお陰なのです。そのシティの中核を担う、最高のコンピュータ『マザー;00』を作ったのは……」
「はぁ……」
 長い講義に旬は、思わずため息を零した。
 リュートの作り出すプログラムは、どれも芸術品だ。
 しかし、彼の講義はそれに及ばない。まあ、専門外といえばそれだけなのだが。
 とはいっても、表向きの職業を失くしかねない講義内容は、どうにかならないものか。
「はぁ……」
 今日、何度目かになるため息をしたところ。
「旬、この問い6をやって見せなさい」
 嫌な問題を押し付けられてしまった。一瞥しただけで、答えは分かったが、それは俺のいるクラスよりも、もっと上位クラスのものじゃないかと疑ってしまうが。
「答えは……」
 一応、正解を言っておく。ちょっと悔しそうなリュートに、思わず笑みを浮かべてしまう。
「……正解だ……。だが、その授業態度は直すように!」
「はーい」
「はいは短く!」
「はい」
 早く終わればいいのに。旬は思う。そうすれば、今日もまたリュートと共に楽しい『ゲーム』が味わえるのだから。
 それまでは、退屈な講義を……新たなプログラム作成時間に割り当てておこう。
 旬にとって、それはいつもの日常だった。
 退屈さと、それを凌ぐ『ゲーム』と。

 そう、彼は気づいていない。
 この日、過酷な運命が彼に近づいているとは……。