複雑・ファジー小説
- Re: dis 3011 ( No.26 )
- 日時: 2012/02/23 14:21
- 名前: 秋原かざや ◆FqvuKYl6F6 (ID: 76WtbC5A)
- 参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode
◆現われたのは天使か悪魔か
リュートの授業が終わった後、旬は講義室でクラスメイトと話をしていた。
他愛のない話だ。
そうやって時間を潰し、ダイブしているだろうリュートが戻ってくるのを待っていた。
「確か、今日は新しいプログラムを見せてくれるんだったな」
思わず呟くもクラスメイト達は聞いていなかったようだ。
と、そこで講義室の扉が開いた。
「こんにちはー。その、神楽間(かぐらま)旬さんって方、いらっしゃいます?」
扉をあけてやってきたのは。
眼鏡を掛けた女性。
しかも、先生でも生徒でもない。見たことも無い女だった。
地味な印象を受ける女性であったが、一つ気になるといえば、男の目を釘付けにしそうな、その谷間の見える豊満な、豊かな胸だろうか。
紫色のルージュが艶かしく、唇を彩っていた。
「俺だけど……」
突然現われた女性に戸惑いながらも、旬は何とか声を出した。
-------------なぜ、俺の名を、知っている?
ぞわりと、背中に寒いものを感じた。
言い表せぬほど気味が悪いのは、気のせいだろうか?
紫色の唇が、言葉を紡ぎだす。
「よかった。僕、すぐ見つけられなかったら、どうしようかって思っていたんだ。見つけられなかったら、カスラ様に怒られちゃうし」
だから、と続けて、眼鏡の彼女は微笑んだ。
「死んでくれないかな?」
「えっ!?」
何を言っているんだこいつは!?
そう言い終える間もなく。
シュンッ!!
ふわりと舞うのは、旬の髪。
間一髪。
旬は、その左手から飛び出した刃を躱した。
手袋で隠されていて気づかなかったが、今なら分かる。
彼女の左手は、義手だ。
周りでは、クラスの女子がきゃーっと叫んでいる。
男子も驚いて、俺から避けてるくらいだ。けれど、どちらも外に出ないところを見ると、この騒ぎを見ていたいのかもしれない。
刺激の少ない学園で、この騒ぎは、いかにスリリングなものなのか。
いや、今はそれを考えているときではない。
頭の中で首を振り、もう一度、思ったことを頭に思い浮かべた。
---------なんで、俺が死ななきゃ、いけないんだ!?
何度も旬を狙っていた左手の刃。
それが旬を傷つけることはなかった。
傷つけられたのは、彼の髪と服くらいだ。
大きな一振りを、旬はまた、何とか躱した。
「案外、機敏なんだね、君」
その手を止めて、彼女は旬を見る。
「あ、諦めてくれた?」
その言葉は、旬の願いも込められていた。
これで、終わりますようにと。
だが彼女は、もう一度微笑んだ。氷のような微笑で。
「まさか」
そういって、かしゃんと左手の義手を外した。
「でも、これなら……どうかな?」
そこに現れたのは、キラリと輝く、レーザーガンの銃口。
「そうそう。これね、カスラ様に付けて貰ったんだよ。女の子は何かと危ないから、お守り代わりだって。お陰でいろいろ役立ってるんだよね」
ぴぴぴという音と共に、銃口の先に光が集まってゆく。もうすぐ、放たれるのは。
「しかも、相手を外さないんだ。凄いでしょ?」
「なっ!!」
旬の叫び声と共に、閃光が走る!
「そうはさせませんっ!!」
何が起こったのか、わからなかった。
旬に来る筈の衝撃、それはなかった。
旬の目に飛び込んできたのは、黒いワンピースと、長い黒髪。
旬と同じくらいの、少女。
「……!!」
声にならない声が漏れる。彼女の名を呼びたかったが、旬はまだその名を知らなかった。
少女がゆっくりと後ろに倒れる。
後ろからでは見えなかったが、先ほどのレーザーで焼かれ、真紅に染まったワンピースが容易く想像できた。
手を伸ばそうと、彼女を抱きとめようと触れようとしたとき。
少女はびくんと振るえ、起き出した。
何事も無かったかのように、むくりと立ち上がり。
「すみません、失礼します」
ブーツの踵を鳴らして、旬を抱きかかえた。
同時に聞こえるのは、機械的な声。
『反重力システム作動』
「え、ちょ、ちょっ!!」
もう、何が何だかわからなくなっていた。
ただでさえ、豊満な眼鏡な女性に狙われていた。
次は、華奢な少女に……抱きかかえられている!?
「しっかり捕まってください」
「あ、はい」
思わず、少女の言いなりに抱きつくと。
ぱりーんっ!!
そのまま少女は、講義室の窓ガラスを蹴って、外に飛び出した。
ついでに言うと、4階から。
「うわああああああ!!!」
「あまりしゃべらないでください。舌を噛みますよ」
少女はこんな非常時でも落ち着いているようだ。
すぐさま近くに生えていた木の幹を蹴る。
目の前にあった建物の屋根に飛び降りる。
そしてまた、次の屋根に向かってジャンプ。
それは、まるでどこかの怪盗を思わせる軽業であった。
こうして旬と少女は、無事、その場を逃げ出すことに成功したのだった。
「ちょ、ちょっと聞いてないよー」
左手を元に戻して、彼女は壊れた窓から旬達を見送っていた。
これから追うべきか、それとも指示を仰ぐべきか。
一瞬、思案したときに、胸の谷間で震える携帯電話に気づいた。
すぐさま、彼女はその電話に出る。
『カスラさんですよーっとォ』
「あ、カスラ様ぁ〜☆」
とたんに彼女の頬が緩むのがわかった。
『どう、フィレール。調子は?』
「あーん、聞いてくださいよーう。変な女がジャマしてきて……でも、ターゲットがどんなヤツなのかは把握しました」
『変な、女ァ〜? 何だそれ、聞いてない、聞いてないぞッ!!』
「ですよね、ホンっと困りますよね」
『とにかく、早く戻っておいで。続きは後だ。依頼主に聞いてみよう』
「はーい、じゃあ、すぐ戻りますね」
ぴっと電話を止めて、彼女を凝視する学生達を睨みつけ。
「ちょっと、こっち見ないでよ。見世物じゃないんだから!」
そう叫んで、左手の甲を触る。
『転送ゲート、オープン』
機械的な声が響いた。
「座標、カスラ様の下へ」
『ラーサ』
その言葉を残して、彼女……いや、豊満な眼鏡のフィレールは、消えるかのように移動して行ったのであった。