複雑・ファジー小説

Re: dis 3011 【1/29 新章追加更新】 ( No.59 )
日時: 2012/02/13 13:26
名前: 秋原かざや ◆FqvuKYl6F6 (ID: 76WtbC5A)

◆小雪と仮面の男

 -------もしかして、敵!?

 小雪は正直、困惑していた。
 仮面をつけているというだけで、かなり怪しいというのに。
「君を迎えに来たよ」
 差し伸べた手。
「さあ、僕と共に行こう。姫達が待つ、『楽園』へ」
 わからない。
 『姫』が誰なのか?
 『楽園』が何処なのか?
 そして、目の前にいる『仮面の男』が誰なのか?

「ですが、旬さんは……渡しません」
 分からない今、自分がやれることは、旬が安全な場所まで移動するまでの時間を稼ぐこと。それくらいなら、自分にできるから。
「乱暴なお嬢さんだね……」
 そんな仮面の男の言葉を無視して、小雪は警棒を振りまわす。
 男はそれを避けながら、時折、小雪にエアバイクごと体当たりして、ダメージを与えていく。痛くて苦しいときもあるけれど、これくらいの痛みなら堪えられないこともない。そう小雪は判断して、懸命に攻撃を仕掛けていく。
 いつの間にか、口の中に鉄の味が広がっていた。
 恐らく、口を切ったのだろう。
 それでも、小雪の攻撃がとまることは無かった。
 だが、一つ問題があった。
 反重力システムの欠点は、長く空中にはいられないこと。
 だから、落ちそうになるところを、途中、壁や屋上に降り立ち、もう一度、ジャンプする必要があった。
 しかし、相手はまだ空中にいる。
 このままでは、ジャンプして体力を消耗する小雪の方が不利だった。
 ただ、小雪にも分があることもある。
「今っ!!」
 片手でエアバイクを操作しつつ、小雪の攻撃を避けること。
 それは仮面の男にとっても、かなりの負担を強いていたようだ。
「しまっ……」
 ロケットランチャーを持っていた手に警棒が強く当たり。
 それはまるで、スローモーションのようだった。
 彼の手から離れたランチャーは、ゆっくりと下の。
 ガシャアアアン!!
 アスファルトに穴を開けるくらいの激しい音が、響き渡る。
 ランチャーは落下の衝撃で、大破してした。中に入っていた弾が爆発しなかったところを見ると、どうやら、先ほど建物を壊した際の弾で打ち止めだったようだ。
 どちらにせよ、これは小雪にとって嬉しい情報だろう。
 相手の攻撃が無くなったのだから。
「まずは、一つ……」
 息を切らせながら、小雪は男に向かって、警棒を振る。
「あなたは……誰、なんですか!?」
 小雪にとって、それは大事なことだった。
 もし、相手がアイツなら、生かしてはおけない。
「それは言えないね」
 タダでは言わない。
 すぐに教えてくれるとは、小雪も思ってはいない。
「なら、私が勝ったら……教えなさい!!」
 男を狙えないのなら、エアバイクを狙うまで。
 小雪は警棒の的を変えた。
 瞬間。
「あーあ、見失っちゃったな」
 男はぐんとエアバイクの高度を上げた。
「ちょっ……!!」
「まさか、バイクで逃げられるなんて思ってなかったからな……今度、会った時は、発信機用意しとかないと」
「そんなこと、させませんっ!!」
 ゆっくり落下する小雪をあざ笑うかのように、男は続ける。
「それまで、飛べるようになっておくといいかもね? お嬢さん」
「待ってっ!! 待ちな、さいっ!!」
 警棒の持っていない手を、相手のエアバイクに手を、必死に伸ばそうとしても、それは届くことは無く。
 落下しながら、男のエアバイクを見送るだけだった。

 小雪はゆっくりと、誰もいない路地に、華麗に着地したとたん。
 膝に力が入らなかった。

 --------まだ、やることが……ある、のに……。

 がくりと、倒れこんでしまう。
 瞼がゆっくりと閉じていく……。

 --------もし、彼がアイツなら、今度は。

 真っ暗になった。
 まだ使命が残っているというのに、倒れてしまう自分を、小雪は責めていた。
 意識が遠く遠く、消えていく中で。

 --------この手で……殺す。

 心の中でもう一度誓い、そして、吸い込まれるように小雪は、誰もいない路地で倒れた。