複雑・ファジー小説

Re: dis 3011 【2/13 新章追加更新】 ( No.60 )
日時: 2012/02/13 16:25
名前: 秋原かざや ◆FqvuKYl6F6 (ID: 76WtbC5A)

◆僅かな綻び

 薄暗い部屋。
 その中で、音も無くコンピューターが動いていた。
 繭のような、空中に浮かぶイスに、彼は体を預けている。
 と、顔全体を覆うヘッドマウントディスプレイの中、彼は首を傾げた。
「ディヴァス、レミド、フォーガレア」
 ぴぴぴと、コンピュータが反応し、ディスプレイの内側で答えを返している。
 彼は眉を顰めると。
「……わかってるよ。けど、もう少しで終わりでしょ?」
 先ほどの言葉が、別の言葉へと変わった。
「このボクが、そんなヘマやると思うのかい? ボクはこの都市の創設者の一人。最高の地位を持っているんだ」
 不服そうな顔で続ける。
「それにそっちでも、それなりの地位を築いているつもりだよ。そのために、単身でこの原始的な星に来ているんだからね」
 ぽぽぽ……とコンピュータが何かを返している。
「とにかく、ここのことは、ボクに任せてよ」
 乱暴にコンピュータを落とすと、彼は苛立ちながら、被っていたヘッドマウントディスプレイを放り投げた。それでも壊れることはないのだが。
「……何だよ。ボクにその力が無いって言ってるわけ? あいつらは」
 イスから降りて、彼は部屋の窓に近寄り、カーテンを開いた。
 とたんに差し込むのは、陽の光。
 彼はその眩しさに瞳を細めて言った。
「変な小娘がいたけど、それだって想定内だ。計画は順調に進んでる」
 彼の眼下には、いつもの営みを続ける東京都市の姿があった。
「もうすぐ、この星は……ボクらのもの、なんだからね……」
 あざ笑うかのように、彼は嗤う。
 その顔に、異常な幼さを残して……。