複雑・ファジー小説
- Re: 現在題名試行錯誤中 プロローグ更新 ( No.2 )
- 日時: 2011/12/05 16:33
- 名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ (ID: FQzo10Uq)
第一章 【 壊しにいく 】
第一話
『シス……ム……ドTN-P1、応答……よ』
——頭の中にノイズ混じりの音声が聞こえる。自分の喉から声を出そうにも上手く出ない声に少し怒りを覚えた。
『シス……ド……』
もう一度音声が聞こえた、と思った瞬間。頭の中に“ガシャン!”という酷く荒々しい破壊音が聞こえた。少し時間が経ってからしっかりと解ったが、あの音は機械が力任せに破壊され粉々に砕け散る音であった。体も思うように動かせず、移動するのも億劫だった自分が最後に目にしたもの。それは、恐ろしいほど大きく骨張った三叉の足であった。
*
「クソッ! 通信機が壊れやがった……」
チッ、と自分に聞こえるくらいの大きさの舌打ちをし、がたんと少し大きめの音を立てて席を立つ。そのままガラスでできた扉を開け広いラウンジへとでる。
この男が出てきた場所、そこは【システム開発局本部外部探索通信班】、通称【S班】と呼ばれる場所である。
ここ、S班では本部勤めの人でも極僅かな人しか入れない、エリート達の集まるところである。基本的な仕事は、本部からシステムコード達への外部状況の通信だ。外部探索をするシステムコード達はS班を頼りながら探索を行う。S班が少しでも指示を間違えたり、注意力散漫で周りが見えていなかったりすると、システムコードは困って動けなくなってしまい、外部生物達に捕食されてしまうのだ。
外部で命を落としたシステムコードを放置しておくと、外部生物が増える危険性がある。その事から、亡くなったシステムコード達を探しにいく役割を持つ人間たちがいる。それが、開発コード(別名改造コードともいう)と呼ばれる人間たちである。
システムコードとは比べ物にもならないくらいの身体能力を併せ持つ、所謂超人である。その超人と謳われる開発コード達も、S班の力なくては外部では生きていけない。それほど過酷な世界で活動を行っているのである。
「よう、尊。なーに疲れた顔しちゃってんの?」
「あ、あぁ。俺の担当していたシステムコードの通信機が外部生物によって壊されちまったんだよ。
システムコードが一人減っちまったかも知れない……」
尊と呼ばれた男は、深いため息をついて手に持っていたコーヒーカップをテーブルに置く。
「アレックス、お前のほうのコードはどうなんだよ」
尊が、自分の正面に座ったアレックスという男にむすっと膨れっ面をしながら問う。その表情にアレックスは、内心あほかコイツ。と思いながら苦笑する。尊はその様子をあまり面白くなさそうにじっと見る。
「今回で三人目。外部生物のレベルが上がってるって印象を持つよ。まあ、調べるにも何するにもシステムコードがいないと話にならないからな。
開発コードに頼んできたところ」
そろそろ研修員も本格的な訓練を行ったほうがいいな、アレックスは先程とは打って変わって真剣にものを考えながら呟いた。
「開発コードも、大変だろうな……。外部生物を殺しながらシステムコード見つけて帰ってくるってよ」
尊はため息を吐きながら言った。アレックスは、尊の発言に目を見開いた。そのアレックスの目線からは“お前、んなこと考えてたのか?”という驚きしかとることができなかった。そんなアレックスの様子を見て、尊は如何せん失礼な奴だなと内心では思ったが、仮にも上司であるアレックスには伝えはしなかった。
『——社員を呼び出します』
毎日午後三時に鳴り響くアナウンス。此処で呼ばれる社員は大抵仕事を良くやっていて、真面目な奴らばかりだ。逆に呼ばれないのは、俺やアレックスのような奴らか……。
「今日は、どの部隊の奴が呼ばれっかなー?」
「知らないよ。ま、誰が呼ばれても自分に関係ないって言うのが事実」
どうせ俺ら呼ばれないじゃん? と肩を窄めてアレックスを見やる。アレックスはそんな俺の表情を見てくすくすと笑い始めた。
『社員呼び出しを行います。所属班、S班、KS班』
どうやら、今日アナウンスを行っている人間は初心者らしい。いつもならもっとスピーディに所属班と、社員名、登録コードを挙げられる。S班内部にいた社員たちも、何時の間にか全員ロビーへと出てきていた。S班以外の班の奴らもたくさんいたが、中でも【KS班】とS班は、アナウンスの続きを今や今やと待ち構えている。
『登録コード、NP-T9614。TD-I842。社員名は、海棠尊、アレックス=ターナー。呼ばれた者……は? え、っと……少しお待ち下さいっ』
アナウンスで名前が呼ばれた瞬間、ロビーにいる社員たちがアレックスと俺のことを探し始めた。周りから「海棠さんは何処だ!?」とか「アレックスさん! 何処にいるんですか?」などと聞こえる。ラウンジにいる俺たちを見つけることは普段なら容易い事ではあると思うが、今日は条件が違う。
アナウンスを聞くためにみんな出てきているのだ。ほぼ全社員が出てきている。そんな中で俺達を見つけることができるのは、俺達を良く知っている奴か嗅覚の優れた人間。視力のいい人間。速く動ける人間。簡単に言うと開発コードやシステムコードじゃないと、無理だろう。
『失礼』
瞬間、凍りついたかのように社員たち全員が固まった。一般人であれば普通の中年くらいの年齢の男性の声だと思うだろう。だが、この社内では違った。この会社で一番支配力があり、権限をどうふるおうが自由な人間。システム開発局本部本部長の声だった。