複雑・ファジー小説

Re: コード×コード 第一章【 壊しにいく 】更新開始 ( No.8 )
日時: 2011/11/22 17:36
名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ (ID: FQzo10Uq)

第二話 『 壊す過程で 』

 一人は恐ろしく冷静に淡々とした口調で、一人は元気というかふざけているような口調だった。尊はシステムコードと名乗った者を見る。外見だけで判断すると男だが、声を聞いた限りでは女と捉えることも出来る。
 ただ、コードに女がいることは全くと言って良いほどいない。体技能に優れている人間は、男が多いからだ。この本部にも女のコードはいるが、優秀な人材はいない。優秀な人材は全て男なのである。その中で女のコードがアナウンスで呼ばれたとなると凄いことだ。情報が漏れたら外では大騒ぎになるのではないだろうか、尊はそう考えた。

「俺は、海棠尊。コードはNP-T9614、これから宜しく頼む」

「こちらこそ、S班のエースの実力を早く拝んでみたくてうずうずしてるんだ。
 僕のことは、んーっと……驟雨(しゅう)って呼んでくれっ!
 あと、よく間違えられるけど僕は男だからな?」

 驟雨と名乗った男に純粋無垢な笑顔で言われ、尊もそれにつられて微笑みながらかたく握手をする。
 アレックスと開発コードは睨めっこをしている様な風でお互い視線を合わせたままそらそうとはしていなかった。アレックスは開発コードを不審に思っているのかもしれないが、不審に思う理由が他の第三者からしてみればわからない。開発コードも開発コードで動じない。

「悪い。黙ってるのは苦手なんだよ」

 アレックスが、苦笑いしながら言う。

「俺もだ。あと、お前のことをどう呼んだらいいのか分からないんだが……」

 開発コードは、すまないと言う様に目を少し伏せ気味にする。先程までは、少し強気な人というイメージをアレックスは持っていたがそのイメージも彼の中で瞬時に壊れた。

「アレックスって呼んでくれ。君が外部で行動しやすいように全力でサポートする。
 だから、君の名前も教えてもらっていいかな?」

 手を出しながら、軽く自己紹介をするアレックスと、その手を困惑気味に開発コードが交互に見る。アレックスは、開発コードの様子に微笑を顔に浮かばせながら開発コードの返事を待つ。

「……開発コード。名前は鈴(れい)。これから、宜しく頼む」

 少し照れ臭そうにハニカミながらパートナーとなるアレックスの差し出した手を、ぎゅっと握る。アレックスも鈴と同じ様に少し握っている手に力をいれ、ぎゅっと握る。

「それじゃ、行くか? 一応、呼び出し喰らってるんだからさ」

 尊が、右腕にはめたシルバーの腕時計の針盤を見ながら言う。放送で呼ばれてから彼此ラウンジに四十分近く居たらしい。アレックスと鈴も握手した手を解く。

「なーなー。尊はさ? S班で、いーっちばん凄い人なんて言われて、疲れたりとかしないの?」

「は?」

 驟雨がラウンジを出ようとする尊に聞く。
 尊は唐突な質問と、その質問内容に少し怪訝そうな表情を浮かばせた。驟雨は尊にそんな表情をされても、微塵も表情や態度を変えず、手を頭の後ろで組んだ状態でニコニコと笑っていた。
 アレックスは、命知らずに等しいような驟雨の態度を見て苦笑を浮かべていた。鈴は、先程と同じように無表情になり、冷めた目で尊と驟雨を見ていた。

「いやー。疲れたりしないのかなーって」

 間抜けな声を上げた尊に、また驟雨が言う。今度は、自分の一番聞きたいことだけを言えたようで、驟雨は先程よりもニッコリと笑みを見せている。

「疲れるとか、お前バカか?」

 ラウンジを出て直ぐの廊下を歩きつつ、周囲の目を気にしながらも話を続ける。

「俺からしてみると、俺より優れてる人間のほうがこの会社は多いんだよ。んで、俺より劣ってる奴でも俺より優れてるって思ってるんだ。それに関してはいいか?」

 尊が後ろを向き後ろを付いて歩くアレックスや鈴達を見る。
 アレックスは尊が振り向いてくるとは思わなかったようで、少し驚いていた。驟雨は、相変わらずニコニコしながら尊を見ている。

「だから、俺を抜かしたい奴は俺を抜かしてアレックスと同じレベルまで上り詰めればいい! どうせ俺の少し上どまりで終わるような奴らだろ? そんな奴らに何を思うわけでもない。てか、思うだけムダじゃん? だから、なにも思わないよ」

 尊の俺様な発言にアレックスはやれやれと溜め息をついて呆れていたが、驟雨は他から見ても面白くなさそうに膨れっ面をしていた。

「まー……お前らしいな尊」

 苦笑を浮かべたアレックスが驟雨の頭に手を置き尊を見る。鈴は疎外されたとでも思ったのか、少し歩くスピードが遅くなった。遅くなったと言っても常人には分からないが、コンマ二秒程度遅くなった。

「話ししてると、遅れるぞ」

 後ろから聞こえた、少し不機嫌なその声に尊始めアレックス達も、幼い子供が母親や、教師にするのと同じように「はーい」と言って歩き出した。