複雑・ファジー小説
- Re: タイトル一時無題とします 第一章【 壊しにいく 】更新開始 ( No.13 )
- 日時: 2011/12/01 14:12
- 名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ (ID: FQzo10Uq)
第三話 続
ポーン。
一言でたとえるならばこんな音。その音がエレベーター内のスピーカーから聞こえ、目的の階に着いた事を知らせてくれる。
普通一般的なエレベーターであれば、音が鳴ると直ぐに扉が開くようになっている。勿論、この会社のエレベーターも一般的なものと同じである。ただ、今回一つ違う点が存在した。それは、音が鳴ったのに一行に扉が開かないということである。
「尊、助けて扉開かない……」
アレックスが他力本願で尊に扉を開けることを要請する。尊はそんなアレックスを一瞥し、深いため息を吐くとエレベーターの角のほうへ行き、徐にパソコンを開き始めた。アレックスは尊がパソコンを開いたのを確認して、自分はエレベーター内を隈なく探し始めた。いつも目に入るような場所から、目に見えにくい細部など注意を払いながら探していく。
「なーなー。尊、なにやってんだよー」
退屈そうな驟雨が面白いことを求めて尊に話しかける。ただ、尊は驟雨を一瞥だけすると直ぐにまたパソコンのディスプレイ画面に視線を向けた。驟雨は文句を言おうと口を開こうとしたが、尊が見ているディスプレイ画面に映し出されている蛍光緑に近い色の文字を見て、文句を言う気力すらなくなり、尊の背中に自分の背中を合わせる様に座った。
「あ、アレックス。俺になんか……できることとか、あるか?」
驟雨が尊に無視された様子を見た後にパートナーであるアレックスに話しかけるのは少し気まずいのか、小声でボソッと言った。
「お? 鈴手伝ってもらってもいいか?」
鈴からの申し出に少し喜びながら鈴を見る。鈴は自分も、驟雨に向けた尊の様にアレックスも無視するものだと思っていたため、とても嬉しそうに微笑み、勿論! と言った。
「んじゃ、とりあえずこっちきて。頼みごというからさ……。
あと、驟雨も尊の方じゃなくて俺のところ来て。鈴だけじゃなく、驟雨にもお願い」
鈴と驟雨を手招きするアレックスに、鈴は少し膨れっ面をしているのに気づかずに、アレックスはエレベーターの階を表示するボタンの辺りを細かく見始めた。
「アレックスっ! なになに? 面白いことだったら、何でも手貸すよっ」
「とりあえず……俺にくっ付かないで貰っていいかな?」
「お前は、お前の相棒がいるんだからソイツにくっ付けばいいだろう!」
驟雨がアレックスの元へ来ると同時に、アレックスの腕にぴったりとくっついた。それを見た鈴が、怒鳴りだした。アレックスは、遠回しにではあるがやめて欲しいとは言ったのだが、驟雨が一向に離れる素振りを見せず、なにをするのかと問い質した為驟雨に離れてもらうのは、諦めることにした。
そして、アレックスが息を吐いて一つ。
「とりあえず、この扉壊して」
満面の笑みで言ったアレックスとは対照的に、尊と驟雨、そして鈴も声を合わせて「はぁ?」と言った。
そんなことを言われてもなお、アレックスが口角を上げた状態だったためエレベーター内は不思議な空気に包まれた。