複雑・ファジー小説
- Re: 鎖解時 第四話更新中 −参照100突破感謝です− ( No.31 )
- 日時: 2011/12/28 16:50
- 名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ (ID: C8D3KebB)
「……って感じ、だよ」
話し終わる頃には尊の目尻が少し赤みがかっていた。
話が進むにつれて記憶に残っている聖母マリアに似た優しさのある母親を、もっと自分が小さい頃に家を守ってくれた逞しい母親の像を思い出してしまっていたからだった。話を聞いていたアレックスも最初はふざけ気味に相槌をうっていたが徐々に神妙な面持ちになり、尊の話を食い入るように聞いていた。一字一句聞き逃さないようにしっかりと集中しながら。再度静まり返った室内には鼻を啜る音、轟音ともいえるほど荒れ狂っている風雨の音、音を立てないように小さく呼吸をする音が響いていた。先ほどより強くなっている雨が風にのって窓にあたり続ける。
「ん、有り難うな」
長い沈黙の後、口を開いたのはアレックスだった。
アレックスは目元をごしごしと摩っている尊の後方に位置している大きな窓を見ていた。外はどんよりと曇り、遠くに見える木々たちが大きく四方に揺れている。思い出したように尊の方を見やると、アレックスと同じように窓の外の景色を眺めていた。
「尊」
「アレックス」
「あっ、ごめん。お前から話して良いよ?」
「僕こそなんかごめん……。僕は大事なことじゃないから後でで良いよ」
「いーから。俺が先に言ってほしいって言ってんだから。尊からいいなよ」
「あ、う、うんっ」
ほぼ同タイミングで声を発した二人。出来立てほやほやのカップルのように譲り合いをして、最終的には彼氏側に誘導されて彼女側から話を始める。今は、尊が彼女側になっていた。
「雨……すごいし、風も強いし、雷もゴロゴロいってる、けどさ……。僕の母さん探しにいける、かな? 今日行かないと、母さんがまた僕置いて遠くにいっちゃう……。
母さんと離れてから、五年間母さんを待ってたんだ……僕。温もりが恋しくて恋しくて辛かったんだ……。だけどね、やっと、やっと昨日連絡入ったんだ。五年ぶりに母さんと話して、昔と変わらない優しい声で『明日、会えたら会おうね。お母さん、尊と会えるの楽しみに待ってるから』って言ってくれたんだ。
またお母さんが遠くに行っちゃうのは、嫌なの……。温もりを感じれなくなっちゃうのが、怖いの……」
幼い少年が、母親に会うことだけを望んでる。また母親が遠くに行ってしまうまえに温もりがほしいって言ってる。
アレックスには考えたこともないことだった。
母親は生まれた時からずっとずっと一緒に暮らしていて、離れることなんかなかった。少し父さんと夫婦喧嘩をして、家から出て行っちゃても次の日には帰ってきていた。何日も、ましてや何年間も母親がいなくなることなど有り得ない。それが幼い時からなど以ての外だった。母親のいなくなった生活など、大変なだけだ。それでも幼い頃から孤独に耐え抜いていた少年に、アレックスは心の内で尊敬と感嘆の念を抱いていた。自分には、背負うにも背負いきれない何かを自分より幼い少年が背負っていることなど考えたこともなかった。