複雑・ファジー小説

Re: 鎖解時 −近々キャラ募集予定− ( No.34 )
日時: 2011/12/29 10:01
名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ (ID: C8D3KebB)

 そしてまた、沈黙が訪れた。母親を探したいと泣きながら懇願する少年の姿に、アレックスはかける言葉が見つからなくなってしまっていた。少年に聞こうと思っていたことも声に出そうにも出すことが出来ない。許容量がオーバーしてきたアレックスの脳内は次第にフィルターがかかったかのように白くにごり始めた。「YES」と「NO」、二つの選択肢をおいて。

「……アレ、ックス……?」
「っ! ど、どうした?」

 自分を呼ぶ声を聞き、ようやく思考が復活し始めた。それでもやはり「YES」か「NO」か、それしか考えることが出来なくなってしまっていた。自分を見つめる尊の目には涙が溜められていて……「NO」の選択肢を選べぶような尊の力になる、と約束をしたのにその約束を破るという暴挙に出られるはずもなかった。

「母さん……探しに、いける……?」

 遠慮がちに聞いてくる尊の表情は、まだ中学生であったアレックスには複雑なもので言葉で言い表すことが出来なかった。

「……本当に、本当に申し訳ないんだけどお前の母さん探しにいけるような天気じゃねぇよ。雷に打たれでもしたら即死しちまうかも知れないだろ……?」

 後ろに続ける予定だった言葉を、続けなかった。
 アレックスの目には悲しみと哀しみ、それに嘘をつかれた事による憤怒と憎悪……絶望もだ。それらが尊を取り巻いているように見えた。その中でも大きかったのは絶望に最も近く悲しみに最も遠い、他者からしたら難しいものだった。
 尊の口は小刻みに震えながら小さく開閉を繰り返していた。それがショックで言葉も出てこない絶望からなる動作だと、アレックスは瞬時に悟った。

「でも俺さ、お前と約束したんだよ。お前の母さん探す力になってやる! ってさ。手前で引き受けた役割を手前で破ることなんか出来ない、よな……。それも俺より幼くて、俺より強いお前が愛してる母さん探すことだぜ? もっともっとお前が小さい頃に離れ離れになってさ……。それで五年越しに再会できるかもしれない、千載一遇のチャンスを俺の都合だけで潰すことなんか出来ない」

 重々しく口を開き、一番尊に伝えたかった心の内をぶちまける。
 年上として。力になると約束したから。尊の母親を見つけることで尊が笑顔になれるなら。 アレックスの本音を言葉にするのを導いたのはその三つだった。それ以外は何も考えず、言葉の形にしていた。少し尊に目を向けてみると、先程とは真逆の表情をしていた。喜びや期待、希望なんかもあるんじゃないかと思えるくらい輝いた表情をしていた。まだ音が出てこない口は、口パクで「それじゃあ」と言っていた。

「いいよ。探しに行こう? お前の大切な母さんをさ。大体は絞れたし……。四つ、マンションを回れば出会えると思う」

 立ち上がり尊のほうに歩み寄りながら言葉をつなげる。尊もアレックス同様に立ち上がる。肩にかけていたタオルはソファの背もたれにかけていた。

「あのっ……。有り難うっ! 本当に……本当に有り難う!」
「お礼は、お前の母さんが見つかったときにしてくれよ。見つかんなかったら申し訳なさ過ぎる」

 尊敬と憧れがまじったようなまぶしい視線を向ける尊の頭を撫でながら二人はアレックス宅を後にした。