複雑・ファジー小説

Cruel:3 ( No.10 )
日時: 2011/11/28 21:14
名前: うにょ (ID: qpE3t3oj)






「…っと、ごめん。ちょっと席外すね」






ズボンのポケットの中の携帯を取り出しながら立ち上がる先輩。



ベンチの先輩の座っていた場所は、まだ温かい。







「……もしもし。…薫?僕さ、今貴重な休憩の真っ最中だし、愛しの後輩と楽しく談笑中なんだけど」






(…“愛しの後輩”って)


その言葉に少し笑ってしまった。





そんな俺を横目で見た先輩は一瞬はにかんで、次の瞬間険しい顔つきになった。







「……っ嘘だろ!つい一昨日なったばかりじゃないか!!」







初めて聞いた。こんなに焦った先輩の出す大声。


その焦った姿も初めて見た。







「っく…。今から行くから!……ああ。そうさせてもらうよ」





ピッ、と電話の終了ボタンを押す音。



何だろう。この異様な緊張感は。







「…悪い、勇人。緊急事態なんだ。行くね」






申し訳なさそうに俺を見る先輩。


その瞳にははっきりと焦りと不安が浮かんでいた。





「…医大生としてなら、俺もついて行っていいですか?」



「……え?」





これほどまでに先輩を焦らせるのは、一体どんな人物なのだろう。





もし俺の推測が当たっているとすれば、確実にそれは先ほど会話に出てきた先輩の患者。俺と同い年とかいう女。









是が非でも、見てみたいじゃないか。













「……分かった。ただし、あくまでも医大生として、だからね。そのことを忘れないで」



「勿論」








俺がそう言うと同時に、病棟の方へと向き直って走り出した先輩。



俺はそんな先輩の背中を見つめながら、その例の患者の元へと向かった。