複雑・ファジー小説

Re: 罪とDesert Eagle 【武器集更新】 ( No.238 )
日時: 2012/02/18 19:08
名前: 檜原武甲 ◆gmZ2kt9BDc (ID: S20ikyRd)
参照: 続き

>>237

となりの白い髭が特徴的なおじいさんが話しかけてきた。このおじいさんがもし旅行に行かなかったら僕は優雅な空が見えたのにと恨んだ。
「おい、おい。いきなり儂を怖い顔で見ないでおくれよ。儂の名は二四 東だ。」
一方的に名刺を押し付けられて腹が立ったがここは機内だ、年寄なんかに暴力をしてはいけないじゃないか。すこし息を整えると名刺を見た。そこには「ジャック株式会社会長二四東」と書いてあり驚いた。

 ジャック株式会社、ジャックグループはいろんな分野に進出している会社で、一つ一つ説明してたら丸一日かかるので省略すると【二四東さんは大金持ち】ということだ。

 ここで一つ疑問が浮かぶ。何故、金持ちがエコノミーに座っている? スイートでも行けばいいじゃないか!
  はっきりと伝えたかったが、まだ出会ったばかりそう簡単に仲良くはできない。ここは遠まわしに追い出そう!
「何故、スイート行かないのですか? ここよりも心地よいらしいですよ」
東さんはすこし笑うと天井を見ながら
「気まぐれ」
「そうですか」
一瞬僕のこめかみがねじ曲がったぞ!! 
僕の心の中で
普通にスイート行けよ! 一度も間近に空を見たことがないのに!
という悪魔が槍を振り回してるぞ!!
「君の名を聞いていなかったな。なんていうのかな?」
心の悪魔を冥界に送り込む……いや追い返し、本名はややこしい名前なので飛ばすことにした。
「本名はちょっと…… ん〜そうですね……ニックネームは【赤毛】です」
ニックネームをいうとほとんどの人が僕の髪の毛を見る。残念ながらご希望の赤毛ではなく、黒髪の天然だ。そしてなんども聞き飽きた質問を聞くことも僕にとって定石だ。
「君の髪の毛は黒じゃないか。なんでだい?」
もちろん、即答。
「言いたくありません」
東さんはため息をつくと
「わかった。家族はいるのかな?」
なんだ? やけに僕のことを聞いてくるな……
「両親はもう他界して兄がいましたが行方不明です」
「それはご愁傷様…… 結婚してるの?」
僕は背伸びをしながら笑った。まず、僕の年齢を間違えているのだろうか? ほんと面白い人だ。
「何歳に見えますか? 僕は17歳です! 結婚はできません!」
「ハハハ、なんか儂からすると不良に見えて」
このジジイ……殺していいか? 殺気を送ると東さんはすこし驚いたふりをして
「いやはや悪かった。儂はからかうのが好きなのでね」
とんだ趣味だな……早く治すといい。
東さんはすこしニヤニヤすると髭をつまみ撫で始めた。
「儂のことは聞かないのかね? 教えてあげようか?」
「……大体わかっていますが、一応聞いときます」

一般人がジャックの会長の名前を知らない人は日本人の一割も満たさない。

「ジャックグループの会長だよ。驚いた? ハハハ君が儂を殺すとどうなるか予想がついたら馬鹿な殺気を抑えるんだな」
「殺気」の所ですこし東さんの裏側がすこしばかり見えた。やはりこの人は裏社会を知っているのだろうか。僕は少しばかり覗いたことはあるからわかるけどあそこから縁を切るのはとても大変だった。
 客室乗務員から水をもらうとゆっくり喉に通した。すこし話し合うと喉が渇くのは人間だからか……これぐらいで乾くとなると東さんと話すには五リットルは必要だな……
「もう一度言いますが、なんで会長がエコノミー座っているんですか? 何かエコノミーに座っている理由があるんですか?」
「なぜエコノミーかは昔下っ端だった時を思い出すためさ。あのときは重要な書類やブツを持って大事に運んだものさ」
そう言い切ると東さんは目をつぶった。昔を思い出しているのだろう、眼尻からは涙が流れていた……ブツ? やっぱり裏社会?
「いかん、いかん。つい感傷的になったようだ…… すこしばかり儂の話を聞いてくれるか?」
「いいですよ」
気軽にご老体の話を聞くのもいずれか必要になるだろう。
「 実はな……儂には孫娘がいるのだがその夫が危険な病に倒れているのだよ。一生懸命看病している娘に何かしたいけど、儂はもうヨボヨボの体…… 赤毛もヨボヨボの体になるな…… 生涯後悔する。」
いきなり身の上話になったがこれはお年寄りがいつもやることだ。ちゃんと対応するのがマニュアルだろう。
 東さんは力を抜き僕が求めていた空を見ながらしゃべった。話が進んでいくほど涙が東さんの顔を濡らしていった。途中で黙ってしまったが、東さんの涙腺はもう崩壊しているため聞かなかった。
「悪いが……すこし洗面所へ行ってくれないか? 一人になりたい」
東さんはボソッとつぶやいた。普段の僕なら嫌がるが、兄を失った時を思い出すと同情が湧きあがった。東さんを傷つけないように静かに立ち上がると、トイレに向かった。
「みんな苦しみを抱えているのか…… あの野郎、俺だけが不幸みたいに言いやがって」
 手をわざわざ冷たくなるまで洗いながら黒眼鏡の大親友でニックネームを作りやがった張本人を思いだし、頭の中で惨殺してからトイレの扉を開けた。東さんは寝てしまったようで、顔に毛布を載せていた。
 起こさないたら機嫌が変わりそうだからゆっくり座わった。


バン! 



……何が起きた?
「ハハッハ。引っ掛かったな赤毛よ。いや〜儂の暗い気分がスッキリ!! ありがとう!」
……はい?
そこまで大きい音ではなかったため周りの乗客が驚いただけだった。東さんは大爆笑をしているから原因を探るため立ち上がるとあの悪戯道具「ブーブークッション」が置いてあった……
どうやら僕が作動させたらしい
「東さん? 失礼ですが、殴っていいですか? 青酸カリ飲ませていいですか? 僕本当に持っていますよ?」
バックから黒いカプセルを出す。もちろん、青酸カリウムなんて持っていない。風邪薬だ。
 東さんは笑いながら掌で僕の行動を制止した。僕の行動は本当に面白かったらしい
「悪かった。悪かったって…… 本当に悪かった」
東さんの何度の謝罪(この後も財布を掏られたので回数が多い……一生分の悪戯をするのか?)で気分が良くなった僕は寝ることにした。毛布をもらい通路側を向いて寝る。
 僕が睡魔に襲われ千切られそうになっていると耳から知らない男と東さんの声が聞こえてきた
「爆弾は持ってきていますか? ボス」
「一応持っている。大丈夫だ、お前らには迷惑かけないようにする。ゴホゴホ……」
「ボス、これを飲んでください。睡眠薬です。ボス……向こうでも闘争があるんですよ。しっかり寝てくださいね」
「ありがとうな。ほんと頼りになる……」
東さんがドッサリと椅子に寄り掛かる音がして男の足音が消えて行った……いや、僕の意識が無くなっていった。