複雑・ファジー小説

Re: 『あ』から始まる ( No.36 )
日時: 2012/01/07 08:02
名前: 結城柵 ◆ewkY4YXY66 (ID: khvYzXY.)
参照: コメ返しはまた後で。&雑談コメはお控えください。

【扉】(紅蓮の流星様提供)

 風が吹いて、自然と体がふるえた。都会の夜は寒い。田舎の夜も寒いけれど。
あまりの寒さに、くしゃみをひとつ。その拍子に、鍵が音をたてて落ちた。
 あれ、そういや、玄関の扉閉めてきたっけ?鍵以前に、扉すら閉めてない気がする。
悩んでも、答えは出てこない。まぁいい。盗られて困る物もないし、俺にはもう必要ないし。
 風が吹く。足元を過ぎていく高級車を、夜遊びかな、羨ましいね、と僻んでみる。
まぁ、いいんだ。俺には関係ない。高級車に乗っているから、幸せな金持ちってわけでもないだろう。
 風が、吹いた。空で光る月は青白く、どこか不気味に思えるほど美しかった。
どこかで、扉を閉める音がした。夜勤かな?夜遊びかな?どちらにしても、ご苦労なことです。
 風が強く吹いた。さて、俺もいかなくちゃいけないかな。一歩だけ前に踏み出せば、もうアンバランス。
俺も扉を閉めにいかなくちゃいけない。ただ、俺が閉めるのは、家の扉じゃない。
もう一歩踏み出せば、世界は反転して。青白い月が足元に、頭上にさっきのとは別の高級車。眼前では若い男が、扉を閉めていた。

 今、人生の扉を閉める時。


『と』びら