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【嘘吐き】
「桜」
　大好きな甘い声が、私を呼んだ。
大好きな、大好きな、あの人の声。でも、できれば今は聞きたくなかった。
だから、聞こえないフリをして歩き続ける。
「桜！」
「きゃあっ！」
　肩を掴まれ、思わず声をあげた。バランスを崩して後方に倒れる。
しまった、と思った頃には温かくて大きい胸に倒れ込んでいた。
「ごめん、驚かせたな」
「何の用…ですか…」
　俯いたまま尋ねる。顔も、みたくないよ。
「ん、一緒に帰ろうと思ってさ」
　大好きな甘い声の主を、殴りたい衝動にかられた。
知ってるよ、私は。貴方が…
「ほかの子と帰ればいいじゃないですか…」
「何言ってんだ、俺は桜一筋だからな」
　きっと穏やかに笑っているんだろう貴方の言葉に、私は拳をきゅ、と握りしめた。
「…紫苑先輩の…嘘吐き…っ！」
　涙が、溢れた。

『う』そつき
2011.12.18