複雑・ファジー小説

Re: 『あ』から始まる ( No.49 )
日時: 2012/01/24 17:53
名前: 結城柵 ◆ewkY4YXY66 (ID: khvYzXY.)

【変な顔】

 アイツが、私の前から消えて、一年経った。
アイツは、ある日突然現れて、ある日突然姿を消した。
荷物とかは全部持っていったくせして、温もりだけは、置いていきやがった。
元々、掴み所のない奴だった。ふわふわと、いつか本当に消えていきそうだった。
それを素直に伝えれば、アイツは、「ふぅん?君にしたら、やけに素直だね」と皮肉ってから、柔らかく、大丈夫だよ。なんて無駄に綺麗な顔で笑った。
アイツは、嘘吐きだ。
懐かしい声と、表情を思い出したら、視界が歪んだ。
一年経ったって、いまだに私はアイツが好きで好きでたまらない。
ぽろぽろとこぼれる雫はしょっぱい。止まらないそれを見たら、アイツはいつも少し困った顔で頭を撫でながら、こう言うんだ。

「「変な顔」」

 重なった声と、頭の上の、控えめな温もりに思考停止。
本能的に振り返れば、そこには、懐かしい白色が、困ったように微笑んでた。
どこ行ってた、とか。生きてたのか、とか。なんでここに、とか。言いたいことは色々あった。あったんだけど。
「ばか…、変な顔はアンタもだっ…」
とりあえず今は、その腕の温もりに触れさせて。

『へ』んなかお
2012.01.24