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複雑・ファジー小説
- Re: 『あ』から始まる ( No.64 )
- 日時: 2012/02/22 19:22
- 名前: 結城柵 ◆ewkY4YXY66 (ID: khvYzXY.)
- 参照: 後編
【昔から変わらない心を、教えてあげるよ 2】
首を傾げる姉さんを無視して、俺は話を続ける。
天気だけじゃない。鳥の声、笑い声、緑の木々、花。明るくて眩しいものは、大嫌いだよ。
俺は、ひょい、とベランダへと出る。風がやや冷たい。部屋を振り返り、また言葉を続ける。
ねぇ、ほらおいでよ。世界は、俺の大嫌いなもので溢れて美しいよ。鳥のさえずり、子供たちの笑い声、椿の木と花。ほら、綺麗だよ。
部屋の中から、俺を見つめる姉さんに手招きをする。姉さんは、少し躊躇ってからベランダへとやってきた。
あぁ、心配ないよ。足の裏は汚れないから。週3の勢いで掃除してるから。だってほら、人生最後に踏む場所は、綺麗な方がいいし。
笑った俺とは逆に、姉さんは不安そうに俺をみつめる。
俺ね、あの日のこと本当は覚えてるんだ。…俺はこの世界が大嫌いだけど姉さんは大好きだ。だからね、昔から変わらない俺の心を、教えてあげるよ。
そう言って俺は、生まれて初めて、本当の笑みをうかべて、落ちた。驚いて手を伸ばして、俺の名前を呼んでいる姉さんが見える。
じゃあね!結婚おめでとう!愛してたよ!
叫び声は強風にかき消された。
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