複雑・ファジー小説

Re: 飛翔〜アイノソラヘト〜 【第三話始動】 ( No.14 )
日時: 2012/09/14 22:20
名前: 日向 ◆BqHTUDkuhU (ID: kUrH10r6)

【第三話 2/2】

〜休み時間、渡り廊下にて〜

 龍牙は普通科校舎に用があり、空軍科校舎と普通科校舎を繋ぐ渡り廊下を渡っていた。
その時——。
「あっ、あの……!」
「ん?」
龍牙は声を掛けられるまで分からなかった。
声を掛けてきたのは金髪で童顔の一年生だった。
「お前は……」
「思い出してくれましたか?夜月です。香道夜月」
「ん。あぁ、覚えてるよ」
龍牙は入学式の日を思い出した、校舎裏での出会いを。
「あれから体育館には辿り着けたのか?」
龍牙はからかうように言った。
「もちろんですっ!」
「ふーん。そりゃ、良かったな」
龍牙は腕を頭の後ろに回した格好で鼻を鳴らした。
夜月が龍牙の顔をのぞき込むようにして訪ねた。
「春咲くん。普通科校舎に何のご用ですか?」
「コレ」
龍牙は茶封筒を夜月に見せた。
「これっていわれても……」
「まぁ、書類ってもんだよ。俺に持って行けだとさ」
夜月は茶封筒を手に取り、凝視した。
「へぇ〜。という事は春咲くんも職員室に用があるんですか?」
「まぁ……「だったら一緒に行きませんかっ!?」
夜月は瞳を輝かせ言った。
その声は渡り廊下に響き渡った——。
夜月はハッとした顔で口を押さえて上目遣いで言った。
「す、すいません……。もし、良かったらでいいんですけど」
龍牙は溜め息をついて呆れたように言った。
「——別に良いよ。俺も普通科の校舎ン中あんま分からんしな」
その言葉を聞くと夜月は心なしか表情が活き活きとしたように思えた。

******

普通科校舎の廊下に二人の足音が鳴る。
上履きが床と擦れる音がこだました。
「なぁ、夜月」
「何でしょうか?」
「お前は職員室に何の用があるんだ?」
「えっ?——あの、私……演劇部に入る事にしたんです、だから入部届を」
夜月は恥じらいながら言った。
「演劇……?お前が?」
「はい。幼いときから演劇が大好きなんです。意外でしたか?」
夜月は目を伏せ頬を染めてゆっくりと言った。
そんな夜月に不覚ながら龍牙は鼓動が高まった。
「——ま、まぁ意外だったな。演劇か。あいつ、ユリと一緒だな」
気を紛らわそうと自然に口から言葉が次いでた。
「ゆ、ユリ……さん?」
「あ、あぁ。留学科の三年生で演劇部の部長なんだ。今度詳しく紹介してやるよ」
夜月は少し考え込むようにして廊下の天井を見上げた。
「ユリさんかぁ……」

ここ村雨高等学校は芸能科等の一部生徒を除き、全ての学科の部活を人種、母国関係なしに統一している。
なので通訳が必要になる事もあるがそこは外国留学を目標にしている生徒に頼んでいる。それでいて生徒のレベルアップにも繋がっていて留学科のある他校もこのシステムを取り入れようとしているのだとか。
それぞれの学科校舎に部室があり放課後は移動する生徒で廊下が少し混雑するのが村雨高校の名物にもなっている。

「あっ、あそこです。あの右の突き当たりの部屋が職員室なんですよ」
二人はようやく職員室にたどり着いた。
「「失礼します」」
お辞儀をしながら夜月は中に入った。龍牙も後に続き入室した。
夜月は演劇部顧問の教師を見つけると、その教師の元へと駆け寄った。
龍牙も自分の用事を済ませるべく現在デスクワークに務めている目当ての人物に声をかけた。
「ディーバーグ先生、少し良いですか?」
龍牙が声をかけると教師は大きく伸びをして振り返った。
龍牙が用のあった教師とは、ディーバーグ・リーグ。普通科の保健体育教師だった。
白髪の混じるその頭髪が目立つ。五十代後半とは思えない筋骨隆々なその体がタイソンとよく似ている。
「——うあ゛?……君は誰だ?学部と学年は?」
「あ、僕は空軍科二年生、春咲・S・龍牙です」
「空軍科生徒が何の用で?」
龍牙は茶封筒を差し出した。
「タイソン先生から頼まれた物です」
「タイソンがか?」
ディーバーグは棚からハサミを取り出し封を切った。
そして中身の書類に目を通す。

最後の一枚に目を通そうかと言うところだった。
「——!?」
ディーバーグの顔が驚愕に歪んだ。
「まさか、こんな事が……?」
龍牙は封筒を運んできただけでその中身を知る由もない、当然戸惑った。
「どうしたんですか?」
ディーバーグは額の汗をぬぐい言った。
「いや、なんでもない。春咲、済まなかった。タイソンによろしく伝えておいてくれ」
「——分かりました。失礼しました」
龍牙は何かが引っ掛かったままだったが聞き倒すのは億劫だったため素直に退室した。

外には夜月が待っていた。
廊下にもたれかかって俯き加減だったが龍牙を視認すると打って変わって明るい笑顔になった。
「遅いですよ〜何してたんですか?」
「お前、待ってたのか?」
「待ってちゃ駄目でしたか?」
唇をとがらせ下から龍牙の顔を伺うようにのぞき込む。
「いや、そういう事じゃあ……。そうだ、夜月」
「はひっ!?」
急に名前を呼ばれ顔を強張らせ夜月は硬直した。
「部活はどうだったんだ?」
「えっ?あっ……。先生は今日から部室に来いって仰いました」
「そうか、良かったな。——あと、有り難う」
「へっ!?私なにもしてませんよっ!??」
夜月はブンブンと手を振り否定した。
「ここまで案内してくれただろ?」
龍牙が笑いかけると夜月はあの時と同じように歯を見せて笑った。
「いえいえどうもです」

「その礼っていうのもナンなんだが、俺も演劇部まで付き添ってやるよ」
「え——? い、良いですよっ!?」
「構わねえよ。ユリを紹介するとも言ってたし、たまにはあいつの面も拝んでやらないと……な!」
「訓練は良いんですか!?」
「生憎、今日は無い」
夜月は頬を染めて頭を少し下げ、言った。
「それじゃあ……お願いします」