複雑・ファジー小説

Re: 飛翔〜アイノソラヘト〜 【第四話始動】 ( No.18 )
日時: 2012/11/28 20:47
名前: 日向 ◆BqHTUDkuhU (ID: kUrH10r6)
参照: なんで大文化祭が一年生のときにあるの?

【第四話 2/2】

「え……ら、らぶしーん?」
「えぇ、ラブシーン」
オウム返しに問う夜月にユリは笑顔で答える。
「——え、えぇっ!? 私がっ!? ユリさんとっ!?」
「そうよ」
取り乱し狼狽する夜月と対照的な笑顔のユリ。
「さぁ、こうしてる暇も無いの。香道さん。こっちにいらっしゃい」
と、ユリは部室の中央で手招きをする。
「——は、はぁ……」
夜月は足取り重く部室中央に向かった。
「シチュエーションはとりあえず、何でもいいから。素敵なアドリブで演じて頂戴」
夜月の顔が更に暗く、歪んだ。
「え゛?いま、ここで、演るんですか……?」
壁にもたれて精気の無い龍牙も顔を引きつらせた。
「ユ、ユリ? 飽くまでも校内発表のオーディションなんだろ?? そこまで過激そうな事しなくても良いんじゃないか……」
ユリはきょとんして言い放った。
「ここ旧日本国だって性には寛容になったんじゃないの??」
この外国女は駄目だ、龍牙は本気でそう思った。
「校内発表でも『そういう事』が起きるシーンを普通にやります。という事なんだな」
「えぇ、そうよ。じゃないとつまらないじゃない」
終始、笑顔だったユリに龍牙はとてつもない恐怖感を抱いた。
ユリの下で夜月はもう何がなんだか分からないという顔をしていた。
そんな夜月が龍牙は不憫で仕方がなかった。
「龍牙、もういいのかしら」
「あぁ、もういい。疲れた」
ユリは夜月を見つめ言った。
「覚悟は良いわね?」
「えっ——??」
夜月は驚いてユリの顔を見上げた。
その目は愛しい人をひたと見つめる「男」の瞳だった。

******

静寂の中で夜月の声が響く。
「ひうっ……。あうぅ……」
「愛してるよ。その声を僕だけに聞かせてくれないか?」
ユリは指で夜月の制服のラインをゆっくりとなぞる。
制服のボタンをゆっくりと外されると甘い声が漏れた。
夜月はユリの肩に腕を回したあられもない格好だった。
二人は顔を紅潮させて見つめ合う。
無論、演技である。

「ッ……!」
龍牙はひたすらに気まずかったと同時にあっさりと人間を変えてしまう演劇に恐怖を抱いた。
何故ならば演劇部員ですらも赤面してしまう光景が部室中央で絶賛公開中であったからだった。
横に設置された目標やその他諸々が掲げてある掲示板の方に目を向けていた。
(やりすぎだっつーの……!!)
龍牙はもうそこから退室してしまいたい位気まずかった。
が、ユリとの約束(一方的な押しつけ)もあるのでとりあえずそこに居るしかなかった。
そんな限りない苦痛に耐えかねていた時——。

「はい、終わり!有り難う、香道さん」
「あ、はい。有り難うございました」
あれだけの事をしたというのに二人とも何事もなかったように会話を交わしている。
乱れた制服を直しながらユリは爽やかに訪ねた。
「ねぇ、龍牙どうだった?」
「うおっ!?」
急に声を掛けられた龍牙は体を硬直させぎこちなく振り向いた。
感想を聞かれても何も答えられない。色んな意味で答えられるわけが無かった。
「あー、良かったんじゃねぇか? あぁ、良かった」
「見てないでしょ」
応とも。そう答えたかったが後が怖いので黙っておくことにした。
「まぁいいわ。——みんな、香道さんの演技どうだったかしら?」
さっきまで静かだった演劇部員が挙手し、我先にと口々に述べる。
ユリはその意見を少し聞いたかと思うと口を開いた。
「それじゃあ、決まりね。校内発表のヒロインは香道さんで!」
演劇部員は皆、納得したように黙っていた。
夜月は事の展開について行けていない。
「わ、私ですかっ!?」
「あのね、香道さん。最初の校内発表は一年生がヒロインを務める演劇をしているの」
「その……主役なんですか?」
「えぇ、これは部長命令よ。。急にラブシーンをやれって言われてあそこまでやったのって今までで香道さんだけだから」
さっきの不純な見つめ合いとは違う、真摯な見つめ合いだった。
(俺の役目は終わりだな)
龍牙は今度こそ立ち去ろうとしたその時——。
【ブッーブッーブブブブッーブッー】
携帯のバイブ音が鳴った。
「もう、うるさいわね……どうしたの?」
「悪い——」
タイソンからの一斉送信メールだった。
龍牙は訝しげにメールの内容を確認した。