複雑・ファジー小説

Re: 飛翔〜アイノソラヘト〜 【第1話1/2】 ( No.7 )
日時: 2012/09/10 12:11
名前: 日向 ◆BqHTUDkuhU (ID: kUrH10r6)
参照: 作業BGMって大切なんだなって痛感する

『第1話1/2』

教師が教室に入ってきても龍牙は机に突っ伏し目を閉じていた。
そのせいか睡魔が襲ってきた。そして知らぬうちに眠ってしまっていた。

「——ぅぐ」

悪夢を見ているのかどうなのか苦しそうな小さなうめき声をあげる。
もちろんユイトは気づいていたが起こそうとはしなかった。
龍牙の周りの者も見かねてタイソンが気付くまでに起こそうとしたがユイトに静止された。
龍牙に対してはにこやかに言う。
「ったくよー。タイソンにブッ叩かれる前に目ぇ覚ませろよ?」
と言うだけだった。

——龍牙はこんな夢を見ていた。
空は赤く夕焼けのように綺麗ではあったが人々は忌み嫌った。
なぜなら焼夷弾による紅の業火に焼かれた空であったから。
そのまっただ中に幼き頃の龍牙は立っていた。

ただ空を見上げ手を伸ばしていたことだけを記憶していた。
そうしているうちに誰かに手を引かれその場から立ち去った。
後ろを振り返ると今さっきまで龍牙がいた所には焼夷弾が落下してきていた。

手を引かれ進むとそこにはキャンプがあった。

木の看板には「救護キャンプ」と殴り書きしてあり異臭が漂っていた。化膿した傷の不快な臭いが辺りを塗りつぶす。
龍牙は幼いながらも戦慄を覚えた——。

至る所に人がいた。
テントから溢れんばかりに収容されている人。
シートの上で横になっている人。
木陰で木に背を預けている人。
なにもない灰色の地面を這っている人。
その全ての人たちが皆、どこかに怪我をしていた。

また手を引かれキャンプの一角にある場所に着いた。
その場所は怪我をしていない人や軽傷な人がいた。
座ってうずくまる人。
子供や兄弟を抱いている人。
話をしている人。
立っている人
その全ての人たちが皆、嘆き、悲しんでいた。

龍牙は誰かに言われ、奥へと進んだ。
奥へ行くと小部屋が二つあった。

「男児戦争孤児院」 「女子戦争孤児院」

孤児院というにはあまりにもお粗末な孤児院だった。
もう寿司詰め状態だったが否応なく押し込められた。
ここまで龍牙を連れてきた誰かは忙しそうに走って外に行ってしまった。

——龍牙はお粗末な孤児院で暮らすことになった。

毎日の食事は朝に1回でビスケット1枚に水が一杯だった。当然水は汚かった。たまに夜食が出ることもあったが大抵は1日1回の食事だった。
外で遊ぶことは出来なかったので子供ながらにみんなストレスを溜めていた。なので些細なことで殴り合いのケンカが起こることは男子女子関わらず頻繁に起きた。
監視の目を盗み大人が暴力を振るいにやって来ることもあった。ひたすら殴り続けると満足したようにどこかへ1回は消えるが一週間ほど経つとまたやって来た。女子はどこかに連れ去られたらしく連れ去られた者は戻って来なかった。
孤児院は正に地獄と呼ぶのが相応しい場所へと化していた。

そんな孤児院でかろうじて生を繋いでいる龍牙にとある転機が訪れた——。

******

夢はここで途切れた、何故なら——。

「おいぃぃぃい! 春咲!春咲・S・龍牙!聞いてんのかァ!?」

「——うおっ!?」
タイソンの投げたチョークが龍牙の額に直撃し、脳天を揺さぶったからだった。
龍牙は額を押さえ立ち上がった。
「痛っ!?」
「目が覚めたか?お前って言う奴はァ……顔でも洗ってこい!」
「はいっ!?」

龍牙は訳も分からず急いで水道へと向かった。
その後ろ姿をタイソンは何とも言えない複雑な表情で見つめていた。