複雑・ファジー小説

Re: 黒き聖者と白き覇者 −小さな黒と大きな白の物語− ( No.1 )
日時: 2012/01/27 15:21
名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ (ID: bJXJ0uEo)

序章【 黒と銀 】
第一話

「ここが……エリアノエル帝国か……」

 1人の人間が、エリアノエル帝国の外にある高い山からエリアノエル帝国内を見ていた。人間は、この暑い夏の時期には不釣合いの厚地の黒いローブを纏っていた。深く被ったフードからは長く伸びた紫色の前髪と不敵な笑みを浮かべる口元しか見えなかった。この時代、紫色の髪をしている人間は、ノエルの一族だけだった。昔は誰でも好きな色の髪の毛にしていたが、何時からかノエルの一族だけのある種特権のようになっていた。エリアノエル帝国の様子を見たその人間は、急な山の斜面を下っていった。それも歩きながら。角度にして、およそ73度。常人では、その斜面を登ることも下ることも不可能な傾斜を一歩一歩ゆっくりと、下りていった。

 山の下に作られているこの背景には合わない煉瓦造りの道に降り立つと、正面からエリアノエル帝国の城門を見る。道をエリアノエル帝国に向かって歩を進める。背景が明るく緑に囲まれているため、黒いローブが一際目立つ。それは帝国を守るために配備されている軍人たちからもよく見えた。

「隊長、何者かがこちらに迫ってきております!」

 城門をライフル片手に守っている兵士の一人が声を張り上げた。“隊長”と呼ばれた男がおもむろに腰を上げた。歩くたびにガシャンとなる重たそうな鎧が、彼の威圧を高めていた。

「不審人物か? 一応身分と職業を聞いておけ。問題が無ければ通しても構わん」

 鼻の下に生えた黒いひげを揺らしながら言う。隊員たちは大きく「はい!」と言い、門の前へと集まった。
 何人かは右手を前に出し、その右手に左手を沿え呪文符とよべれる者をぶつぶつと唱えていた。黒いローブを纏った者はその様子を見て、口を一度歪ませた後にニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

「そこの者! 貴様の名と性別、職業を言え!」

 偉そうに門の前に立つ一兵士に命令され、ローブの者はつまらないと言わんばかりに大きく欠伸をした。様子を見ながら呪文符を唱えていた兵士たちのほぼ全員が驚きに目を見開いた。ローブの者の行動に驚いたのではない。ローブの者の後ろから現れた巨大なケルベロスに驚いたのだった。それは城門を守る兵士全員、勿論隊長と呼ばれていた男もだ。

「ああ……。あれほど出るなと言ってたじゃないか……」
『主を守るのは我の仕事、と言っていただろう?』

 巨大な、真白いケルベロスと黒いローブの男。対照的な色合いだが、その一人と一匹に兵士たちは目を奪われていた。

「私の名は、……タリス。性別は男だ。職にはついていない!」

 兵士たちの方を向き、大声で言う。ケルベロスは、【タリス】と名乗った男のすぐ横に、ちょこんと座って兵士たちを見ていた。