複雑・ファジー小説

Re: 黒き聖者と白き覇者 −小さな黒と大きな白の物語− ( No.2 )
日時: 2012/01/06 11:25
名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ (ID: JbVqO821)
参照: http://loda.jp/kakiko/?id

 タリスは城門に向かって歩きながら話を続ける。

「私は帝国に用がある。そこにいるケルベロスもだ。
 それに、私に魔法や呪文といった類は効かない。……嘘だと思うなら試してくれたって構わないがな」
『………。主よ、我は帝国なんぞに用はないぞ? ただ……興味があるだけだ、漆黒のユニコーンにな。ソレがただ、ココにいるのかも分からないだろう』

 タリスの発言に、兵士たち全員がざわめき立つ。この世界での戦争では武器を使うことは殆ど無い。使用するのは魔法や錬金術といったものだ。魔法での致死率は96%ときわめて高い。この数値は錬金術の約2倍程度高いのだ。その魔法が効かないとなると、騒ぐのは当然だった。素性も分からない男の言い分を信用するのかしないのか、このどちらかで兵士たちの心は揺れ動かされていた。

(容易に心が揺れるのか……。分かり易すぎるな)

 男は、回りに気づかれないように少し口角を上げる。男がローブをつけていなかったら、心底楽しそうでつまらないという謎の表情が見受けられたに違いない。

『主よ。魔法は……効かないのか?』

 先ほどからテレパシーを使い頭に話しかけてくるケルベロスに、ニッコリと微笑みかける。

「効かない訳が無い。常人たちと同じように私にも魔法や錬金術は効く。もちろん召喚獣からの攻撃も、だ。ただ破壊力が無い攻撃と等しくなる、とだけ言っておく」
『破壊力が……無い攻撃に等しくなる?』

 タリスの発言にケルベロスはその大きな三つ首を傾ける。そのうち二つの頭がぶつかりにらみ合っていた。
 タリスは、細かいことは気にしなくていい、とケルベロスに言うと顔にうけべていた微笑を消し、無表情のまま戸惑っている兵士たちを見た。タリスが彼らを見ると兵士たちは皆、ビクッと肩を震わせた。タリスは、必要最小限の筋肉だけを使い“グリフォン”とつぶやいた。
 すると、ケルベロスとタリスの遥か後方に位置する巨大な山脈の一角が崩れ落ちた。兵士たちはそれを見て、大きく目を見開く。中には「土砂崩れが起きた!」などと叫び散らす者もいた。中でも冷静だったのは、隊長といわれる男とタリス、ケルベロスだった。崩れ落ちた岩や砂、木などは大きな砂ぼこりをたてていた。その中から大きな黒い影が現れたのを、兵士たちは目に焼き付けた。
 ソレは人間には肉眼ではっきりと見えないほどのスピードでタリスの横に降り立った。

『あるじー。私は今日どうしたらいいのかちら?』
「グリフォン、君はとりあえずそこにいてくれ」

 タリスの元へ現れたグリフォンは、大型犬並みの大きさしかなく、本来ならケルベロスと同じくらいの大きさに育つはずなのだが小さいままの可愛らしいグリフォンだった。