複雑・ファジー小説

Re: 黒き聖者と白き覇者 −小さな黒と大きな白の物語− ( No.17 )
日時: 2012/01/11 16:22
名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ (ID: JbVqO821)
参照: HNを戻そうか……。うーむ、雑談では両方名乗ってるから別に良いかな

第五話

 ノエルが付けていたピアスから放たれたテレポーテーションの光に包まれてキルト中尉、リノアル、タリス、ルトナがやってきたのはエリアノエル城の正門だった。正門の大きさは、この世界でいう大男。身長2メートル半ぐらいある男2人分位の大きさのある巨大な四角い門だった。城の周りには小さな小川が流れており、小川を跨がなければ城に行くことも町に行くこともできない仕様になっていた。城から町に出るときは必ず城から橋を下ろす必要があった。
 今、彼らの目の前には巨大な木の扉と、小さな木の扉の二つが見えていた。ノエルが小さな木の扉の方に歩を進めていったため、キルトやタリスたちもその後に続く。いつもなら、タリスが歩くときにルトナがタリスの前に、リノアルが後ろにいた構図ではなくなり、リノアルはノエルとキルトの間に、ルトナはタリスの右横に付く形となっていた。

「タリス殿、私と貴方様のケルベロスは違う部屋に行きます故、キルト中尉に部屋を案内させますので」
「………」

 ノエルが笑顔を浮かべながら話しかけてくるのが、タリスは妙に落ち着かなかった。リノアルを危険な目にさらしている訳ではないと思ってはいても、なかなか言いようのない不安が次から次へとこみ上げてくる。そのためろくに言葉も返すことができずただ力なく小さく頷くだけだった。

「でわ、タリス様こちらへ……」
「……ああ」

 真白く輝く大理石が使われた大広間から、入り口から見て左側に作られている小さな木の扉の方に歩いていくキルトを、いつもの半分くらいの速度で追いかける。ノエルはそんなタリスの様子を不思議そうに見ていた。何故急に歩幅を狭く、ゆっくりとしたペースで歩き始めたのか彼には見当が付かなかった。リノアルとルトナは互いに何かを察していた。ただそれはまだ確信に変わる事がなく、二匹は数秒合わせていた視線をほぼ同時のタイミングで逸らした。

「……ノエル国王」

 動かしていた足を止め、呟く。その瞬間、大広間の空気だけが氷付いた錯覚にとらわれる。ノエルの後ろを付いて行っていたリノアルにノエル、歩いていたキルトも素早く振り向いた。タリス自身も左足を軸に半回転しノエルとリノアルを見る。口元には何時もの不思議な笑みを浮かべていたタリスに、リノアルはノエルに気付かれないようにタリスに微笑んで見せた。それに気付いたタリスもばれない様に、ほんの一瞬優しく微笑む。

「ノエル国王。外出の許可は、頂く事は可能ですか? 少し、この国の昔話を知りたいもので……。できれば、国立魔術錬金術図書博物館への入館許可を頂きたい」
「と、図書博物館の入場許可……ですか?」

 やっぱりか、と内心諦めながらもノエルの方を向きノエルを見続ける。ノエルの顔色が目に見えて青ざめていく。予想をしていた事とはいえ、此処まで分かりやすく焦るような城主の下へ自分が来たのかと思うと、悲しい気分になる。

「ノエル国王。流石に……ダメですかね。最上級の魔法文献などを置いている図書博物館に“一般人”が出入りするのは……」

 ノエルがギクッと、不思議な反応を見せる。ノエルが此処まで出入り許可をおろすのを躊躇うのには訳があった。
 タリスが出入り許可を求めている『国立魔術錬金術図書博物館』はエリアノエル城で働いている兵士(曹長より下位の者は入れない)しか入ることを禁じられている場所である。世界中の国と比べても世界有数の大帝国として名を馳せているエリアノエル帝国には、この国以外の歴史的書物や、昔使われていたとされている錬金術の道具などが多く保管されている。数年前、このような歴史的文献などの窃盗を目的として進入した“一般人”がいた。そのため唯でさえ警備の堅かった入り口が、今まで以上に厳しくなったのだ。

「今日の夜、国立魔術錬金術図書博物館に向かう予定で御座います。……その時までにご決断お願い致します」

 そういうとタリスは踵を返し、キルトの元へと向かう。背中で受け止めたノエルが階段を上る時の足音がとても記憶に残った。このとき、タリスは忘れていたことがある。ノエルが怒り狂っていた場合、憂さ晴らしの標的となるのがリノアルであるということを——。