複雑・ファジー小説
- Re: 黒き聖者と白き覇者 −小さな黒と大きな白の物語− ( No.21 )
- 日時: 2012/01/14 22:08
- 名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ (ID: kx1LgPV4)
第六話
階段を上った途中にあった、小さな通路にタリスたちはいた。高さは1メートルと70センチくらいだろう。タリスは天井に背伸びをして頭をつけ、高さを確認していた。それにしても……タリスはキョロキョロと通路を見る。城の中で一つも蝋燭を燃やさないところがあるのが不思議でたまらなかった。
『——あるじー』
「大丈夫、分かってるよ」
ルトナが見つめる視線の先に、大の大人が余裕で出入りできるくらいの大きな穴の開いた壁が映っていた。それが意図的に作られたものであることは安易に想像することができた。そう考えると、この通路も人が作ったものであることになる……。その通路に少し入ったところで止めていた足を、大きく一歩踏み出した。
——瞬間、目の前で大きな光が発生し強烈な爆風にタリスの身体は木の葉のように吹き飛ばされた。それは急すぎることだった。吹き飛ばされ自分の身を守ることを最優先すべきときに考えるべきことではないことで、思考が乗っ取られていた。この国に閃光弾を作れる人間がいることにわくわくしていた。
「い゛っでぇ……!!」
思いっきり背骨と頭を打ち、大広間で痛みに悶える。両手でローブから頭を押さえると生地が少し薄くなっているのに気がついた。急に強力な光を浴びたため視界がチカチカするも先程いた小さな通路を探し焦点を合わせようとする。……あの至近距離で閃光弾を喰らったのに失明していなくて良かったと、心の底からタリスは思った。
『あるじーっ!』
『主! 大丈夫か!』
深い暗闇の中から二つの影が飛んでくるのが見えた。それも無茶だ、と何時もならいう高さからルトナとリノアルが飛んできた。
後から聞こえてきた兵士達の焦る足音に安心して意識が朦朧としてくる。唯でさえ満月だというのに、無駄な傷を負ってしまったなぁ、と軽く焼け爛れた生地を見ながら小さく呟いた。
「何事だ!」
ざわついていた足音の中で一番早く止まったのは、声の主であるノエルだった。どうせリノアルが部屋を飛び出したりでもしたのだろう、そうでなければこの陰気な男が出てくるわけでもない。
「……ノエル国王。リノア……ケルベロスなら此処にいますよ」
「あ、あぁ、そうか……」
安心したように言葉を紡ぐノエルの姿を見て何故か悲しさを覚えた。今まで一度しか感じる事のなかった悲しさを思い出す日が来ることなんか思いもしなかった。
大勢の兵士達が、大広間に集まったのがわかった。全員が入ったと思ったら、天井にでも付いていたのであろう大きなシャンデリアに光が灯された。光で照らされたタリスたちの図は、傍から見れば異様な光景だったろう。タリスの両側にケルベロスとグリフォンがいて頬擦りしたりしているのだ。
「オメーの生命力ってしぶてーんだな」
自分の真上から聞こえた声に驚いて閉じていた目を開く。タリスの目には褐色の肌をした銀髪ポニーテールの青年が前かがみにタリスの顔を覗き込んでいる画が映っていた。急に現れたその青年に一斉に銃口が向く。青年は身体を起こし、まぁまぁ待ってくれよ、と苦笑しながら兵士達を宥めていた。
「オレは、ノエルっつー国王さんに会いに来ただけなんだっつーの!
使いのよわっちそうなヤローから、伝達きてねーんすか?」
上から下、右から左に大広間を見渡しながら言う。しかも、演技か分からないが両腕を大きく広げながら叫ぶ。
「お前うるさいし……名前、なに」
体力消耗が激しいながらも、小さな声で青年に聞く。青年は一度口を閉じ、視線をタリスに合わせ微笑んだ後に響き渡る声で言った。
オレの名前は、ダン。ダン=ノード=ガロンだと。